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第80話
「はい……。なんか俺、ゆきちゃんのパンツ見た辺りから妄想と現実の区別がビミョー過ぎて……。頭の中でゆきちゃんのパンツを脱がせて、後ろをぐちょぐちょに弄くりまわして、それでゆきちゃんがアンアンハアハア言う妄想しつつ、現実のゆきちゃんもしっかり目に焼きつけようとしてたら、いつの間にか舐められて……。俺、我慢出来ずに……いっちゃってました……」
長々とした言い訳の後、奏は最後にガクッと頭を垂れた。
「あはっ! 八千代くんさ、こういう時は妄想してちゃダメじゃん!」
さすが奏とでもいうべきか。こんな時にまで妄想をしていたとは、何とも器用だな、と思う。
しかし妄想し過ぎですぐに暴発していては、いつまでたっても先に進める気がしない。
「八千代くん。次からはちゃんと目の前の俺だけを見てくれなきゃ嫌だからね?」
苦笑いでクギを刺すと、奏は大人しく頷いた。
「あの、ゆきちゃん……」
「はい?」
「今からリベンジとか、アリですか……?」
「……無しじゃない? だってもう日付変わるよ?」
いつの間にか時計の針はてっぺんに差しかかろうとしていた。
「うっ……」
奏は悲痛な呻き声をあげた。
「八千代くん」
由幸は奏の頬を両手で挟み、チュッと軽いキスを贈った。
「また今度ね? 今度ゆっくりたっぷり……しよ?」
努めて明るくそう言えば、奏の眉毛は嬉しそうに下がった。
「八千代くんシャワー浴びちゃいなよ。パンツも汚しちゃったし、クローゼットから着替え出しちゃえば?」
由幸は脱ぎ散らかした服を拾いながら、奏に声をかけた。
「あっ、はい。じゃあお先です」
クローゼットの扉を開けて奏は奥に入っていった。
「デニムは洗わなくてもいいか……」
由幸が奏のズボンを畳んでいると、ドタバタと激しい足音をたてクローゼットから奏が飛び出してきた。そのあまりの勢いに、ゴキブリでも出たかと由幸は怯えた。
「向井さん! これ! これっ!!」
「え?」
何か黒い物を奏は手に握りしめている。しかしそれはゴキブリなんかではなかった。
「これ! ゆきちゃんが履くんですか!?」
ズイッと由幸の目の前に差し出されたそれは。由幸自身もすっかりその存在を忘れていた、黒い小さなセクシーパンツ。
「ああっ! それっ!!」
しまった、と由幸は額に手をあてた。
奏と進展がなくて悩んでいた時にネットでポチったその下着。忘れた頃にまさか奏が見つけてしまうとは……。
「これっ! 向井さん、こういうの履くんですか?」
奏はその黒い小さな布きれを、左右にぐいっと引っ張った。その目はキラキラと煌めき、新しいおもちゃを与えられた子供のようだ。
「履かないよ!」
「え……? だってこれ……。じゃあ誰が履くんですか? これ、小さいけどメンズですよね?」
「それは……」
由幸は言葉に詰まった。それを購入するに事になったいきさつを、さっさと笑い話で済ませてしまえばよかった。しかしタイミングを逃してしまっていた。
「それは……、『ゆきちゃん』が履くつもりで買ったんです……」
もうそれ以外に言いようがない。
「え? ゆきちゃんって向井さんですよね?」
奏は不思議そうに由幸を見つめている。
「うん。奏くんに……抱かれたい『ゆきちゃん』が、どうやったら君をその気にさせれるか考えて……買いました……」
我ながら意味不明な説明を、奏はパンツと由幸の顔を交互に見ながら聞いていた。
「ゆきちゃん!」
奏は勢いよくその場にうずくまった。
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