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第87話

 しばらくして数名の生徒達が校舎から出てきた。その中にひとり、遠目からでも分かるイケメンがいる。  委員会の仲間だろうか。ケイイチの周りを取り囲むように数人で、会話をしながら歩いていた。  疲れてしゃがみこんでいた美歌がすっと立ち上った。そして校門の門柱に身を寄せるように姿を潜めた。 「やっぱ、来なければよかったかも……」  今さらながら怖じ気づいたのだろう。そんなことを小さく漏らす。  澤部はそんな美歌に寄り添うように立った。 「八千代……帰る?」  美歌はふるふると首を横に振った。 「フェードアウトなんてすっきりしないもん。ひと言だけでも文句言ってやるんだから……」  必死に勇気を奮い立たせている美歌を見つめて、澤部は少し笑みを漏らした。 「俺、八千代のそういうとこ好きだったよ。」 「え?」 「ハッキリ物を言うとこや、すぐに白黒つけなきゃ気の済まない性格。それにちょっと突っ走っちゃうところ。俺にはなくて、すごく憧れた」  うわあ……。  甘酸っぱいリアル高校生の告白を生で見て、由幸はこそばゆい気持ちになる。美歌も好意を感じ取ったのか、少し頬を染めて澤部を見上げていた。  そんな二人のすぐそばまでケイイチはもうやってきていた。美歌もそれに気がついて、表情が一変固くなった。すっと一歩踏み出すと、ケイイチから完全に見えるところへ歩み出た。 「美歌」  ケイイチは驚いて目を見開いた後、さっと気まずそうに美歌から視線ををそらせた。 「ねえ、私に何か言うことあるよね?」  ついさっきまでの気弱そうな美歌からは想像もつかないような冷静な声だ。 「ミサキって彼女?」  美歌はド直球で問い詰めた。  ただ事ではない美歌の様子に、ケイイチの仲間達は少し遠くからこの様子を見ている。 「ねえ!」  美歌が焦れて声を荒げた。 「何なん?この女。」  突然、ケイイチの背後から声があがった。なぜか美歌を睨めつけながら、その声の主はケイイチの隣に立った。  背は美歌とそう変わりなく、小柄だがやたらと存在感のある男子。ぱっと見、女子かと見間違えるような美少年だった。  色素の薄い長めの髪。目はぱっちりと大きく小さな唇が薔薇色で、肌も透けるように白い。  しかしその瞳が鋭い眼光を放っていて、やたら気の強そうな印象だった。 「ミサキは俺や。三崎雄太郎や」 「え?」  美歌はぽかんと三崎雄太郎を見つめた。  もちろん由幸も。澤部は眉間に皺をよせて、伏し目がちにしている。 「みさきゆうたろう……?」  突然話に割り込んできた少年を見つめて、美歌は話が見えずに立ちつくしている。そんな美歌の目の前に、雄太郎はずかずかと距離を詰めてきた。 「てか、あんた何? 先輩になんか用なん?」  雄太郎ははっきりと威嚇した。不躾なその態度に、美歌も負けじと雄太郎を睨みつける。 「私は! ミサキっていう名前の、ケイイチくんの彼女のこと言ってんの!!」  イラつく美歌に、雄太郎は口角を上げて笑った。 「あー。それ俺」 「はあっ!?」  雄太郎は勝ち誇った表情で、美歌を馬鹿にして笑った。 「あんたは何? 何でこんなところで先輩のこと、待ってんの?」  明らかに自分の方が優勢だとわかっている口調。美歌の顔が真っ赤になる。 「ち、違う……!」  否定したのはケイイチだった。 「男となんか本気で付き合うわけないじゃん!? そいつがやたらしつこかったから、話合わせてただけだよ!」  ケイイチは慌てて弁解らしきものを語ったが、それを見る美歌の目は醒めていた。 「はいいっ!?」  逆に雄太郎は頭に血がのぼった様子で目を剥いた。 「先輩、それほんまに本気で言うてますか?」  小柄な体からは想像つかないような、地獄の底から響くドスの利いた声。

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