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第88話
そこにいる全員が、雄太郎の殺気に怯えてた。
「当たり前だろ……! だれが男なんか……」
「あぁっ!? おどれそれ本気で言うとんのか!?」
雄太郎はケイイチのシャツの襟元を捻り上げた。
「われ……、いてもうたらぁ!!」
ドスッと鈍い音が響いた後、ケイイチの体はスローモーションで崩れていった。雄太郎がケイイチのみぞおちに一発お見舞いしてやったのだ。
「おい! そこの女!」
くるりと美歌へ振り向き、雄太郎はケイイチを指差した。
「この腐れ野郎はクソ野郎やで! あんたも俺も騙されてたんや!」
おまけにがつっと靴の先でケイイチのわき腹を蹴った。
「この! あほが!!」
ケイイチはあまりの痛さからか悶絶している。雄太郎はそれを一瞥すると、美歌の腕を引っ張り歩き出した。澤部と由幸も慌てて二人を追った。
***
「何なん、この部屋……!」
由幸の部屋の窓ガラスに張りついて、雄太郎はそこから見える東京タワーに興奮している。もうそんなリアクションも見慣れてしまった由幸は、美歌達をソファーに座るよう促した。
「奏くん、ケーキ買ってきたから……」
自分でも声に疲れがにじんでいるのがわかる。本当は奏と二人で出かける予定だったのに、なぜかあの後成り行きで、高校生組三人は由幸の部屋にお邪魔することとなってしまった。
主に雄太郎の勢いに押し切られた感じだったのだが。
「美歌の兄ちゃん、おっとこまえやん」
ささっと雄太郎は奏の隣を陣取った。
「ちょっと! 美歌って呼ばないでよ!!」
「何でなん?美歌の兄ちゃんも八千代やから『八千代』って呼んだら、どっちの八千代かわからへんやん」
ごもっともなへ理屈に美歌はぐうの音も出ない様子だ。
「ほら皆……お昼ご飯食べたら?冷めるよ」
遅めの昼食は、結局奏のバイト先で調達した。本当なら今頃、奏とどこかでランチをしている予定だったのに。
「せやな、食べよー。俺、ハンバーガー久しぶり!」
雄太郎はさっさとファストフードの包みを開けていく。
「俺な~、冷めたポテトも好きやねん。ぐにぐにして、なんか旨ない?」
さっさとポテトをつまんでひょいひょいと口に運ぶ。そんな雄太郎につられ、美歌も澤部もハンバーガーを食べ始めた。
「なあ、美歌は先輩とやったん?」
「ちょっと!!」
ストレートな質問に美歌が喉を詰まらせた。
「ええやん。だって俺、美歌と話したてみたかったからここへ来たんやし」
「…してないけど。」
「あ~、そうなん~?」
にやにやと小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、雄太郎は身を乗り出した。
「やっぱな~、俺のほうが全然魅力的ってことやんな~?」
暗にケイイチとそういう関係であったということを匂わせている。
「何よっ!」
「でもなあ~、美歌も俺も男を見る目はなかったんやなあ~」
ポツリと呟いたその言葉は、雄太郎の寂しさが透けて見えた。
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