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第92話
奏も由幸に負けず劣らず情けない顔をして、それでも一生懸命笑っている。奏も自分と同じくらい緊張していると思ったら、愛おしさで泣きたくなった。
「あはっ。百戦錬磨のゆきちゃんがビビるなんて。俺のほうが断然ビビってますよ。だって全くの初めてなんだから……」
「何だよ~……、百戦錬磨って」
いつもの軽口が戻ってきた。苦笑いを浮かべていると、奏は額を由幸の額に押し付けてきた。
二人の間に全く距離がなくて、全体にぼやけて見えている。それでも大好きな奏の顔だと思った。
「俺、きっと優しくする。もしかしたら少し痛いかもしれないけど、絶対無理やりなんてしない。ゆきちゃんのこと、大事に大事に抱くから」
「うん……」
由幸は奏の体を抱きしめた。どくどくと心臓の音が響く。奏は緊張から少し震えていた。
奏が好きだ。
好きで、好きで、好きで……
さっき感じた恐怖は、いつの間にか期待へと変化していく。奏に大事にされる自分が嬉しい。嬉しくて嬉しくて、じわりと涙が滲んだ。
奏の手が由幸の服を丁寧に脱がしていく。まるで大事なプレゼントの包装紙を剥がすように。
今日の奏へのプレゼントは『由幸』だ。
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