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第94話

「はっ……」  余裕の無さを表すように、急に入れられた異物感に由幸は息を漏らした。 「苦しいですか?」  たかが指一本。苦しいなんてことはない。  ただ、見えなくても目の裏にはっきりと思い描けるほど、その形を覚えてしまっている奏の長くてきれいな指。それが自分の中に入っているという事実に羞恥心が煽られていく。  由幸はゆるゆると首を振った。 「大丈夫だから……」  ぬるぬると蠢く指。  由幸は顔を見られたくなくて、腕で覆って隠した。しばらくそうしていると、もう一本、指が増やされた。 「んっ……」  開かれていく自分のそこに、小さな甘い疼きを感じた。  痛くはない。  快感もない。  しかし奏の手によって、自分の身体が拓かれている。 「あぁ……」  由幸は感嘆を吐いた。奏の指がぴたりと止まる。 「ありました?」 「え……?何が?」 「その……、中の感じるところ……」  奏の好きな漫画によると、出すところの内側に確実に感じるスポットが存在する。それをしつこく刺激してやれば、受けはどこまでも蕩けていく──らしい。 「ごめん……、違う」  由幸は苦笑を漏らした。 「そっか……」  暗い部屋でもはっきりと、奏が肩を落としたのが分かった。 「おいで」  奏を抱きしめてやりたくて、由幸は腕を伸ばした。由幸の中に指を入れたまま、奏は身体を倒しそうとした。  その瞬間── 「あ、はぁっ!!」  奥まで入っていた指が浅くなり、指先がそこを掠めた。  今まで経験したことのない快感。それが気を抜いた由幸の全身に走り、由幸は大きく声を漏らした。 「え……、あれ……?」  奏は再度確かめるように、浅いところをくりくりと刺激する。 「あっ、あっ、あ、あっ!」  声を出さないと気が散らせないほどのびりびりとした強い快感が、由幸の全身を貫いていく。 「だめっ……、あっ!だ、めぇっ!!」  由幸は固くシーツを握った。何かに縋らなければ、まな板にあげられた魚のように身体が跳ねてしまう。  突然に奏の指が抜けていった。その刺激すら強烈に感じる。  由幸は荒い息を吐きながらうつ伏せた。 「ごめん……」  奏の身体が背後から重なった。優しく抱きしめられて泣きそうになる。 「ん……」  自分の身体に起こった快感を、脳が上手く処理できずに由幸は呆然とした。 「やめておく?」  首筋に奏の息がかかり、細い声が漏らされた。 「え?」  由幸は身体を捩らせ奏を見た。 「もし無理なら、俺は出来なくてもいい」  由幸の体を思ってだろう。奏は優しく言った。

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