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第5話

 典夫の出勤の時間が早いので、朝は別々だが、夕食はよほどのことがない限り一緒にとる。  料理は帰宅が早い知矢が作っている。  最初は包丁を持つのも怖々だったが、慣れとはすごいもので、そのうち少し凝った料理も作れるようになってきた。  仕事で疲れて帰って来る兄においしいものを食べてもらいたい一心で作る料理。それを兄はいつもきれいに平らげてくれた。  洗濯や掃除は二人が分担して、買い物は休みの日に兄の車で済ませる。  典夫と知矢の新生活は、まるで新婚夫婦のようにひたすら甘いものだった。    そんな二人の幸せに影が差すのは、一緒に暮らし始めてから半年ほどが過ぎた頃のこと。 「おい、知矢。今日の合コン、おまえも行かないか?」  四時限目が休講になり、そのあとなんの講義も入っていない知矢は、せっかく時間ができたから今夜は奮発してごちそうを作ろうと、るんるんとした気持ちで帰ろうとしていた。 そんな時、後ろから親友の裕二(ゆうじ)が声を掛けて来たのだ。 「男が足りないらしくてさ。それに相手は結構かわいいコ揃いだって話だし。たまにはつき合えよ、知矢」 「いいよ、僕は。そういうの苦手だし」  知矢がきっぱりと断ると、裕二は大げさに溜息をついた。 「おまえ、本当につき合い悪いよなー。まだ一度も合コンに参加したことないだろ。せっかくの大学生活楽しまなきゃ損だぜ? 彼女とか欲しいって思わないのか?」 「えっ……だって僕には、ちゃんと決まった人いるし」  それが実の兄だとはいくら高校時代からの親友といえども口が裂けても言えない。  しかし、裕二の方は知矢のこの発言に大層驚き、それこそ執拗に聞いてきた。 「おまえっ、知矢、いつの間に。その彼女うちの大学の女の子じゃないよな。一緒にいるの見たことないもん。いったいどこで知り合ったんだ? どんなコ? かわいい、よなぁ。知矢が選んだ女の子なら」  矢継ぎ早の裕二の質問に、嘘の苦手な知矢は引きつった笑顔を浮かべながら答えないでいると、 「とにかく知矢、今日はもう講義ないんだろ? 俺もないから。どこかファストフードでも食べながらゆっくり聞かせてくれよ。彼女のこと」  そのまま強引に引きずって行かれた。

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