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第7話
「…………」
お兄ちゃん、誰? その人……。
突然見せつけられた兄と見知らぬ女性とのツーショットに知矢がショックを受けているうちにも、なにも知らない裕二がすきかって言う。
「結構お似合いじゃん。おまえの兄貴ってかっこよすぎるから女の人の方が霞んでいる感じもするけどな。それにしても兄弟そろって美人の彼女がいるなんて、世の中って不公平すぎる」
「……裕二、ごめん。僕もう帰る」
羨望の視線を向けてくる親友へ、どうしても少し震えてしまう声でそう告げると、素早く立ち上がる。
「えっ? ちょー、知矢――」
後を追いかけて来る裕二の声に振り向くことなく、知矢はファストフード店から出て行った。
外に出ると、兄と謎の女性の姿を探す。すると道路を挟んだ向かい側のタクシー乗り場で二人が立っているのが目に入ってきた。
兄の横に立つ女性は艶やかな黒髪を後ろで束ねて、黒のスーツで身を包み、耳には小さなピアスが揺れている。
裕二の言う通り兄の典夫が目立ちすぎるので、若干女性の美しさは抑えられてしまっているが、それでも美男美女、二人はとてもお似合いに見えた。
少なくとも自分が兄の隣りにいるよりも自然なのは確かで。
胸が嫌な鼓動を打ち始める。
兄を信じていないわけではない。けれどもそれでも不安になってしまうのはいつまでも変わらない知矢の悪い癖だ。
それはどうしてもどうしても消えない不安が知矢の心の根底にあるから。二人が世間では決して許されない関係にあることだ。
誰にも言えない関係。決して祝福されることはない二人。
そんな二人の関係に兄が疲れてしまったら。
知矢と愛し合う禁忌を犯すことを忌避してしまったら。
あの女の人なら典夫は両親にも堂々と紹介でき、周りから祝福の言葉を得ることができる。
どうしようもない不安と胸を引き裂くような嫌な鼓動とともに帰宅した知矢はリビングに鞄を投げ出すと、そのまま洗面所へと行く。
蛇口をひねり、勢いよく流れ出る水で顔を洗った。
……こんなことで不安になってちゃだめだ。
お兄ちゃんはかっこいいから昔からすごく女性にモテる。そんなことは嫌ってほど分かっているはずなのに。
僕はなにもかもお兄ちゃんが初めての相手だけど、お兄ちゃんは違う。
二人が恋人関係になる以前に、兄は決して少なくない数の女性と付き合い、それなりの経験を積んでいる。そのことを考えれば胸がもやもやしてとても嫌な気持ちになるけれども。
でも、僕とそういう関係になってからは、お兄ちゃんは決して僕を裏切るような真似はしてない。
女の人の方が一方的にお兄ちゃんを好きになることは多々あったけれどもそれに応えることは決してなかった……。
だから今回もきっとなんでもない。
それでも胸が不安でざわつくのは恋をしている者としては当然のことだと思う。
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