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変化
輝樹は付き合っていたと思っていた子に三股をかけられてフラれたと言って、呆れている郁人に寄りかかりながらオイオイ泣いている。
「三股って……気付かねえ方が悪いよ。おまけにその中でもお前が三番目だったんだろ? 蔑ろにされてんの気付くだろ……」
「いや、三股してる奴が悪いんだろうが! 傷口に塩塗るような事言うなよ、郁人の意地悪!」
輝樹は郁人にプイッと怒ると、すかさず晶に寄り添いその腰に抱きついた。
「……あれ? 晶、なんかいい匂いする……」
「ああ、さっきシャワー浴びたから」
「えっ、じゃあ俺も! 郁人んち泊めて! 今日は一人でいたくねえ…… 俺もここで寝る!」
そう言って輝樹は自分勝手にシャワーを浴びに行ってしまった。
「は?……ふざけんなよ。なんなのあいつ」
郁人はあからさまに不機嫌になり「もう知らね」と呟きベッドに潜ってしまった。
郁人が怒るのも無理はない。晶だって輝樹の邪魔が入って少なからず苛々していた。でも誰かの家に集まって朝まで過ごす事だって今までも何度もあった事。輝樹がフラれるたびにこうやって慰めてやったり一緒にヤケ酒に付き合ったりもしてきたから、こうなってしまうのも自然な事だった。
「あれ? 郁人寝ちゃたの? 何だよ……つれねえな」
シャワーから戻った輝樹は下着姿で勝手に部屋をうろつき、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
「今日は何してたん? 郁人の奴、今日はデートだなんて言ってたのに……」
いや、デートだとわかってるのに、夜遅くにその部屋に押しかける神経ってどうなんだよ……と心の中で突っ込みながら晶は適当に話を流す。まさか俺が郁人のデートの相手だなんて思わないよな、と自嘲気味に笑った。
この日から数日、何故だか晶は郁人から避けられるようになってしまった──
避けられている、というのももしかしたら晶の思い違いかもしれない。それでも今までしつこいくらいにくっついて来ていた郁人だったから、こうやって校内を一人で過ごすのが寂しく思った。
「あれ? また一人かよ、どうした? 愛しの郁人様はよ?」
冗談交じりに一聖が笑う。でもこういった状況が三日目にもなれば晶だってもう笑えなかった。
「……知らね。今朝から既読無視だし。また誰かとデートでもしてるんじゃね?」
ふいっと横を向き、晶は目に涙が溜まってしまうのを誤魔化した。
「さっき向こうで郁人見たぞ。なんか親しげな女と一緒だったけど……」
一聖は晶に遠慮することなくそう伝える。晶は「そっか」と小さく返事をしただけで、それ以上は何も聞かなかった。
何がいけなかったのだろう……
やっぱりあの時のことが原因なのか。それでも俺はどうしたらよかったんだ? だって輝樹があんな状態じゃ仕方がないだろう。俺だって郁人と二人きりで朝までいたかったのに…… 頭の中をぐるぐると考えが巡る。元々女と恋愛をしていた郁人だ。男の自分と付き合ってみても、思い通りにセックスもできないんじゃ付き合う意味がない、とでも思われたのか。郁人がそんな男じゃないのはわかるのに、それでもこの現状に思考はどんどんマイナスになってしまっていた。
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