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恋は突然に。~秋広の場合~
時は春。
グーンと空に向かって腕を伸ばし少し肌寒い春の兆しを浴びているこの人物、神山家の長男として立派に成長した秋広 はここは親の店である月下美人というカフェアンドバーを営んでいて夜を担当している。
肩まで伸びたサラサラとした髪は後ろで結ばれ、28という年齢で歳に反し老けて見られ、更に身長のせいもあるのか近寄り難いとお客に言われた。少しでも年相応になるよう以前はかっこいいと思って伸ばしていた顎髭は剃り元々整っていた顔はそれによってよく映え、秋広目当てで来るお客も多かった。本人はその事実よりも怖がられることも無くなりお客が増えた事が嬉しかったからだ。
そして今日は父と母は突然デートに出掛けた。二人は50を過ぎた今でもラブラブで今日のように急に出かけるので昼に店に立つこともある。朝、出る前に見た二人の幸せそうな姿を思いだし顔が綻んだ。
朝、10時看板を持ちドア前に置いて店は開店する。
「お、おはようございます!」
店に入る際に背後から若く少し掠れたような元気な声が聞こえ、振り返る。
「おはよう、夏樹 くん。今日も元気だね」
この子は最近近所に引っ越してきた言う19歳の学生だ。何度かここに通ってくれてから家族ともどもよくしている。三男の陸人 と可愛いさが似ているが少し違うのは160後半の身長と静かに笑いその時できるえくぼと白い肌。大人しめの性格だがよく次男拓海 に弄られていては照れたり怒ったりと喜怒哀楽のよくある子だ。
「あ、あ、あの!秋広さん!」
「ああ、ごめんね、考え事してたよ。それでどうしたの?」
なんだか夏樹くんの頬がほんのり赤く高揚していた。
「いや、あの特に大した用事ではないんですが・・・今日は終わりまで店にいますか?」
夏樹くんは緊張気味に服の裾を掴みうつむき気味に言った。
「うん、いるよ。けど、夜もあるから16時に早めで閉めるよ」
答えるとがっかりしたように肩を落とした。
「また19時にお店においで。ご飯たべていきなよ」
「はい!」
さっきまでの表情は一気になくなり明るく返事をした。そして、じゃあ大学行ってきますと元気に走っていった。
その姿を見て、俺はやはり弟を見るようでかわいいなと感じた。
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