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優しく触れて。~拓海の場合~
「いらっしゃいませ。予約されてますか?」
店員は来店したお客に挨拶し確認後椅子まで招き入れ担当美容師に耳打ちする。
まだアシスタントの店員・拓海 は成人男性の平均身長を大きくも低くもない所謂中肉中背といった一般的な体系だが父方の祖父はフランス人で彼の父は日本とフランス人のハーフでありそして日本人である母の間から産まれたのでクォーターであるがそれを弟と共に色濃く受け継ぐことはほぼなかった。外国の血を引いてるからと言って目の色は青ってわけではなく一般的な茶色で髪色は受けついだのか元々茶髪だったが少し長めの前髪は父に似てきりっとした目を隠すためである。隠す理由は弟が死んだ父と母のことを思い出し悲しくならないようにだ。
「拓海くん、カラーお願い」
先輩に頼まれ、奥でカラー材を作っていく。まだアシスタントだから雑用は多いが、美容師という仕事に対しては苦に思ったことはないし何しろこの店員みんなが仲が良く先輩も店長も仕事終わりの練習にも付き合ってくれる。早く一人前の美容師にならないと強く思う。
「ねぇ~陸人くん次いつ来る?」
作業している俺に聞いてくる人はここの店長の麻耶さんだ。別のアシスタントにシャンプーを任せてるのか休憩しに来たようだった。
「この間来たじゃないですか。それかうちに貢献しに来店してください」
もう陸人くん切れと言い、麻耶さんは本当に可愛いものが大好きでその中で1番陸人がお気に入りで実家の店に顔を出しては秋の次に陸をよく甘やかしている。
「俺、カラーしてくるんで」
「もう拓海ってば、つれなぁい」
麻耶さんは30代ですらっとした9等身で見るからにモデル体型で美人であるが店の名前とそぐわない。だが、美容師としてかなりの凄腕で芸能界でも俳優や女優のヘアメイクを担当する事も多く、彼女にやって欲しいと来るお客もいる。業界で人気の美容師が店まで持っていてきちんと経営者できるのかと思うだろうが、麻耶さんは自分の様に多方面で活躍出来る美容師を育てていきたいと言う理由で今でも他の仕事の合間に指導をしてくれる。
そしてこの店の就職方法は珍しく、麻耶さん自ら専門学校へ行き引き抜いていく。自分が通っていた専門学校に麻耶さんが訪れ、コンテストで出した作品が本人の目に付いて気になり学校の先生から聞いた家の店に隠れてお客として来店し父と母と意気投合しそのまま学校卒業と共に俺の就職先が決まったという訳だ。
業務が終わりいつものように居残り練習していた。
「拓海、もう遅いからそろそろ帰りなさい」
集中していた意識が声によって元に戻り時間を確認すると21時を回っていた。
「店長、お疲れ様です。急いで片付けます」
ゆっくりでいいわよといい着信がなった携帯を取り出し奥に入っていった。俺は片付けを始めて帰る準備を整えたとき、電話が終わり一緒に店を出て麻耶さんはそのまま家にかえると思いきや同じ方向に向きを変えた。
「今日も飲む!」
なるほどと納得し同じ帰路にたどり着いた。
店に入ると金曜日だからか混んでいて秋と父さんが店に立っていた。
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