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優しく触れて。~拓海の場合~

  「拓、おかえり。お、麻耶ちゃんも一緒なんだね、カウンターへどうぞ」  父さんが俺と麻耶さんに気づいて席へ招いた。忙しい時は父さんも母さんも出るけど基本は秋一人だ。  俺はそのまま部屋へ戻るつもりだったが先程より気分のいい感じで無理やり同じ席へ座らせられた。 「二人ともお疲れ様。麻耶さんはビールですか?拓は?」 「俺はジュースでいいよ」  秋は接客を終え、俺たちの席へきて注文を受け取り、また飲み物とお通しを持ってきた。麻耶さんと乾杯をし麻耶さんは見た目に反し男らしく喉を鳴らしビールを半分まで飲んだ。 「あなたはもう少し自分を理解した方がいいよ」 「いいのいいの、この見た目だから逆になんでか誰も寄ってこないしこの方が楽なの!」  綺麗すぎて近づきにくいって意味だろう。でも麻耶さんは男には興味は全くない。なぜなら、恋愛対象は女性だから。このことは会って最初に言われ偏見はないし秋が付き合ってるのも男だから、恋愛は他人がどうこう言うことじゃないから気にしない。 「あ、そうそう!拓海にお願いしたいんだけど、今週の日曜日手伝ってほしいことあるんだけど予定ない?」  明後日か確かに予定はないので大丈夫と答えた。 「牧龍之介(まきりゅうのすけ)って知ってるでしょ?」 「ああ、人気の俳優だ」  俺が答える前に秋が答え、その名前に少し聞き覚えがあった。前にみんなで見ていたドラマに出ていて母さんが素敵だと言ってた人物が重なった。 「まあちょっと」 「日曜日にTVの番組収録あるらしくてヘアメイク頼まれたのよ。折角だし拓海に私のアシスタントとして手伝ってほしいの」  なんで俺なんだろと思いつつ承諾した。秋と父さんは羨ましいと言っていた。この年にして今流行りの俳優などは解らなくて興味あるのはファッションと美容関係のものだけ。美容師としての力とお客にアドバイスできるように学んだ。そうでもしないとこの見た目でもし独り立ちしたときお客が付かない気がした。 「正旭(まさひ)さんおかわり~」  正旭は俺の父さんの名前で麻耶さんはいいペースでお酒を進めていく。本当に飲むことが大好きなんだと感じる。俺はあまりお酒は得意ではなくほぼ飲まないがこうやって話して付き合うことが多い。麻耶さんが言うには一緒にいて落ち着くと言われるが秋と陸みたいにそんな要素は持ち合わせていない。だからそんな言葉理解できないし逆に冷たいと言われる。学生のころ付き合っていた彼女とは最初何となく付き合っていた。その内好きになっていったが上手く気持ちが伝えることができずどうやって伝えればいいか分からず振られた。 「拓海、日曜日お願いね!後で場所メールするから今日は付き合ってね!」  はあ~と小さくため息つくが嫌いではないのでテンションの高い麻耶さんに今日は付き合うことにした。 「秋広、前に店で会った子とはどうなの~?」  何杯目かのお酒を頼み秋に尋ねた。前というのは俺が秋にカットモデルを頼んだ日に偶然会った夏樹のことだろう。麻耶さんのことだからもう既に気づいていて聞いてきたんだろう。 「あ~まあ色々ありましたが、付き合うことになりました」  少し照れ気味に秋が答えた。その表情がなんだか幸せそうでこちらも嬉しく感じたが、近くで聞いていた父さんは初めて聞いた事実に驚愕しその顔を見た麻耶さんは罰が悪そうな顔をしたが、その後俺と同じように嬉しそうに言った。 「秋・・・夏樹くんとそんな関係になって良かったな。息子が幸せならどんなことでも受け止めるよ」  そんな父さんを見て思う。陸と俺はを養子だが本当の息子して受け入れてくれる当たり肝が据わっているがこの人の家族になれたことがとても誇りに思う。だが、この性格の上父さんに上手く伝えらえないのが心残りだ。 「秋広、ごめんね!私、正旭さんには自分の事情言ってるけど当たり前のように言ってごめん」  麻耶さんは珍しくしゅんと肩を下したが父さんによっていつものように戻った。 「麻耶ちゃんが言わなかったら知らなかったし、僕の子供たちは大事なことは言わないからいいの」  うう~と麻耶さんはうめき声を出し泣き始め、俺に「良い親持ったね、大事にしな」と肩を叩かれた。そんなことは他に言われなくて分かっていて、小さく「ありがとう」と言った。  

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