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優しく触れて。~拓海の場合~

 コーヒーを飲み終えて麻耶さんにトイレに行くと伝えて、中に入ると誰もいなく小便器で用を足す。終えて洗面台で手を洗い鏡を見る。先程の牧さんの顔を思い出し、自分もあんな顔なら良かったと思い、前髪を上げ切れ長の目を眺めた。 秋は元々親譲りの整った顔をして夏樹が惚れるのもわかる程良い顔をしている、弟・陸は実の母親に似ていて目は大きく明るい性格をしていて誰からも可愛がられるが、俺はこの目と性格が冷たく何考えているかわかないといわれる。別に好きでこんな性格と見た目ではないし考えはきちんと持っていてただ気持ちを上手く伝えられないだけだ。 「はあ~」 「ため息つくと逃げるよ、幸せ」  誰もいなかったトイレから自分以外の声が聞こえドキッとして、声の主の方向へ顔を向けた。そこには先程会った牧さんだった。すぐにハッとし上げて乱れた前髪をいつものセットに直し視界は半分になる。 「こんにちは。空気吐いただけなんで大丈夫です」 「冷たいなあ~。あ、もしかしてそれ照れ隠しだったりする?」  そう言って牧さんは小便器に行き用を足し始めた。 「・・・別に」  心を読まれたことにドキッとして目線を下に向けようとしたその道中に用を足している牧さんの姿がはいりただそれだけなのにその姿さえも様になっていた。イケメンはトイレする姿までかっこよく見えるのはなんでだよ、羨ましい。 「君、そんなに見ないでくれ。恥ずかしくて溶けそうだよ」  牧さんは、ははっと笑ったがそれがどうもうさんくさく感じた。絶対そんなこと思っていな、この人。 「すみません。俺先に行くのでまた後で」  俺は挨拶をすましそそくさとその場を後にした。休憩所に戻ると麻耶さんがもう楽屋に向かうと言うのでついていく。  さっき会ったのにもう会うのかと少し牧さんに気まずさがある。  部屋に入ると牧さんとマネージャーらしき人がいて挨拶する。 「なんだ、君は麻耶ちゃんのアシスタントだったんだね」 「そうなのよ、私のとこの優秀のかわいいアシスタント!」  バシッと背中を叩かれて前のめりになり、痛いからやめてと麻耶さんに告げた。そしてかわいいってその言葉訂正して、麻耶さん。 「神山拓海って言います。今日よろしくお願いします」  牧さんに握手を求められ手を離すと次は頭の方へ手を持っていき、前髪で隠れていた目元がクリアになり一瞬事が起きるのに反応は出来なかった。 「うん、やっぱり綺麗じゃないか。色白で目も肌も好みだ」  視界に整った顔が映り、驚愕するが直ぐに牧さんを押しのけるように距離をとった。  何が起きた?顔見られた。恥ずかしい。頭の中で言葉が巡り混乱し何より他人に顔を見られたことが恥ずかしく顔が熱い。腕で顔を隠すように覆った。 「・・・やめてください」 「龍之介!もうその考えなしの行動やめなさい!拓海、大丈夫?」  麻耶さんは俺を抱き抱えるように引き寄せ、乱れた前髪を直してくれた。大丈夫だとお礼をいい麻耶さんからも離れて身なりを整えた。 「どうして隠すんだい?トイレで会って少し見えた目が綺麗でまた見たくなったんだ」 「龍之介もういいでしょ!はい、時間ないから始めるよ」  その言葉に戸惑っていると麻耶さんが間に入ってくれて話は中断した。牧さんは残念と言って指定された席へ座りヘアメイクが開始された。 俺は気持ちを入れ替えて準備を始め麻耶さんのアシスタントとして働いた。そして鏡越しで牧さんがずっと見ていたようで目が合い逸らした。  めっちゃ見られてる・・・早くこの空間から逃げたい帰りたい。

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