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優しく触れて。~拓海の場合~

 座ってとソファーに案内され言われるがまま腰を下ろすと牧さんはキッチンに行きカップに何か入れて持ってきた。 「ごめんね、僕の家コーヒーしかないんだ。どうぞ」  俺はカップとシューガーとミルクを好きなように使ってと渡され、それぞれ一つずつ入れて少し冷めるのを待った。  牧さんは隣に座り一口飲んだ後カップをテーブルに置くと見つめられたと思いきや何故か顎を掴まれて目が合った。ほほ笑みかけられながら距離が近くなるとキスされた。  舌でぐぐっと押し開けられるように唇を開けられた。口の中に液体が流れ込んできて反射的に苦い液体をゴクッと飲み込んだ。すぐさまぬるっとしたものがゆっくりと舌に絡められ吸われるように、でも優しく包まれるような感覚と牧さんの舌は温かくて気持ちよくなる。 「んっ!んん!」  呼吸するのを忘れていて息が苦しくなり、牧さんの肩を叩いて抵抗するとようやく離れてくれて思いの他、唾液が多く俺の顎を伝い垂れていく。  腕で涎を拭い、にらみつける様に牧さんを見た。 「な、何するんですか!」 「その顔が可愛くて愛しくて、ついね」  そんなんで勝手にキスされてたまるか思って油断していたらまた次は抱きしめられた。また俺は反省しないんだ。 「牧さん!」 「龍って呼んでっていったじゃないか」  簡単に呼べるわけない考えながら抵抗もすることなくただドキドキと早い胸の鼓動が聞こえどちらの胸の音なのか明らかだった。 「麻耶ちゃんから電話あったけど最近何かあったのかい?」  優しく聞き出すように言ってくるけど、絶対何が理由でこうなったのを分かっているのにその聞き方はずるい。俺はあなたのこと頭から離れないのにこの人はそうじゃないのかな?俺だけがこんなになるのはおかしい。 「単刀直入に聞きます。どうしてあの時俺に言ったんですか・・・愛してくれって」  はっはと笑い抱きしめていた腕を緩めて向き合う形となった。 「君のこと好みといったの覚えてるかい?こんなに美しい容姿なのに隠すなんてもったいないよ。家族以外にはつんつんしてるしそこが可愛いだけどちょっかい出すときりっとした目が垂れて赤くなって可愛い、笑うともっとね。なのに、いつも目逸らす癖に僕が見ていない時は真っすぐみていてなんだか見透かされているように感じてもっと知りたくなったんだ。もっと僕を見てほしいって僕のものにしたいと思ったんだ。君が良いんだ」  前髪をなぞられ視界が広くなった。牧さんの綺麗な顔が映り、より胸の音がうるさく目も離すことも出来ずどうしていいか解らない。 「遊園地ってさ、昔から僕の憧れだったんだ。僕の家金持ちで厳しくて習い事と勉強ばかりして一般的な家族がしているようなどこかに出掛けたりもない、家族との会話はほぼなかったし友達と遊ぶこともできなくて周りが羨ましかった。そんな僕を見て大好きだった使用人のおばあちゃんが隠れて遊園地連れてってくれるって言ってくれたんだけど、行く前にそれが見つかって行けなくて使用人はやめさせられた。悲しかった。あの時僕がかばっていればって。親が怖くて何も言えず気持ちを塞いだ。まあ色々あって性格は変えたけど、あの時家族には僕を見てほしかった、大人になってからもそれが心残りで紛らす為に仕事を忙しくしたり何しても駄目だった、心に穴が開いたような気がした」  牧さんは苦笑いを浮かべていた。俺と少し似ている気がした。牧さんは好きな人に愛してほしかったんだ。そして大切なものがなくなって辛かったんだ。この人の事をもっと知りたい、その気持ちを俺が何とかしてあげたい、あなたのそばに居たい。あなたが好きだ  言葉よりも先に身体が動き、牧さんの優しく頬に触れ口づけて抱きしめた。 「龍さん、あなたのことを愛したい」 優しく触れて。~拓海の場合~ end    

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