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そんな君も好き~陸人の場合~
何時間かは忘れたがかなりの時間やっていた気がする。お互いはあはあと息を切らしていたが先に寝転んだのははるちゃんだった。僕は膝に手をついていた。
「はるちゃん強いよ~」
「神山の方こそ立ってられるなんてどんな体力してるんだ」
若いからと言いながら笑うとはるちゃんも笑う。顔が怖く厳つくて表情筋がなく近寄りがたいと言われていた顔が目に皴ができ口角がぐっと上がり声出して笑う。その初めてみた顔に胸がきゅんとなるような感覚があった。しゃがみ込んではるちゃんの顔を覗き込むようにすると目が合う。
「はるちゃん、僕・・・」
「陸?」
その言葉にはっとして振りむくと拓ちゃんと龍ちゃんがこちらを見ていた。誤魔化すように二人に近づいて声をかけると、二人は今日は休みだったらしくデートをしていて偶然僕を見つけて声をかけたという。
「陸は何してたんだ?友達?」
僕を見た後拓ちゃんは奥をみていて何か考えていた。
「あ、学校の実習生の先生ではるちゃん、じゃなかった、笠松悠先生」
はるちゃんぼそっとと呟いて思い出したようにあ!と大きい声をあげてはるちゃんに近寄った。何か話しているみたいではるちゃんの顔は驚いていてその後笑っていた。それを見てなにか心の中でもやっとしたものが芽生えた気がした。
「ねえ、陸くんあれ楽しそうだけど僕止めていいかな?」
僕と同じように羨ましそうに見ていた龍ちゃんが低くそう言うとぞっとしたが、やがて二人はこちらに戻ってきて紹介した。
「陸、昔のこと覚えているか解らないけど小さい頃近くに住んで遊んでたはるだよ!あの後引っ越して会えなくなったけどまたこうして会えてよかったな」
拓ちゃんは肩を組んで言っていたけど全く覚えていない。昔なんて知らない。思い出したくない。何か込みあげてくるような感覚がありうつむいているとはるちゃんは僕を引き寄せて言った。
「拓、久しぶりに会えて良かった。弟はきちんと俺が家に送り届けるから安心してくれ。じゃあまた」
僕の手を引き、無言で歩き出した。
はるちゃんはずっと電車に乗っているときも家への道も無言で手を離さすそばにいてくれ、それが先程までの気持ちが落ち着いた。
家に着いた頃、ゆっくり手を離し頭に手をおいた。
「今日は楽しかった。また月曜日な」
ただ、それだけ。優しく触れて離れていく。それが悲しくて、はるちゃんと呼び腕を掴んだ。なんだと振り向くとなんでもないとぱっと離した。
「またね」
はるちゃんに背を向けて家にはいるとドアを背にし崩れ落ちる様に服をぎゅうっと掴んだ。
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