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第5話

「ぁあ、やっぱりよく似合っているね」  あの店に行った時に、王家御用達の店だとは気づいていたのに光瑠さんが第一王子だとは思わなかったんだよなぁ。 「ごめんね、輝君」 「え?」  近づいて来た光瑠さんに抱き上げられる。仕方なく首に手を回すけど。 「っは?え、なんで?」 「こうしないと俺から離れて行ってしまうだろう?」  それはそうだろう、と思う。だって俺がパーティーの主役の隣にいたって意味はないのに。 「君に嫌われたくはないんだけど、ごめんね」  光瑠さんは長い足で歩き出す。えっ、嘘だろ?まさか、このままパーティー会場に行く気か?  王子相手に下ろせ、と言うわけにもいかないよなぁ。 「分かりました、お側にいますから」 「本当?良かった。でも、もう少し君を抱いていたくなった。ごめんね?輝君。パーティーが終わったら、たくさん俺を詰ってくれて構わない」  王子を詰るとか、無理すぎるだろ。だけど、意志の強い顔を向けられてはもう、諦めるしかなさそうだ。  俺は光瑠さんのごめんねの意味を全く分かっていなかった。  パーティー会場に入ると、たくさんのフラッシュと共に写真を撮られた。パーティーの主役の登場に歓声が上がるのも、何故か俺を抱いて登場したことに驚く声が上がるのも理解は出来る。けど、この状況は大袈裟過ぎないか……? 「この子が俺の婚約者、広海輝君です」 「……え?」  嘘だろう?と言う気持ちで光瑠さんを至近距離で見つめるが、返ってきたのは甘やかな笑みだった。  再びたくさんのシャッター音が鳴り響く中、そういえばと思い出した。第一王子が誕生日パーティーで婚約者を紹介するという発表がされた、とクラスメイトが騒いでいたことに。俺には関係ない話だと思っていたし、未だに理解が追いつかない。  だけどそういえば、父さんに俺が欲しいと伝えたとか言ってたな。王族に求められて断る理由が何処にある?とか言いそうだ。  婚約者ならこの人は、最初からパーティーが終わっても俺を解放する気はなかったってことじゃん。騙された……。  パーティーが始まると床に下ろされた。入れ替わり立ち替わり、色んな人が誕生日や婚約のお祝いをひっきりなしに話しに来ている間もずっと、俺は光瑠さんの隣に立っていた。逃がしてくれなかったのだ。肩や腰を抱かれて光瑠さんの至近距離で、婚約者として優しく扱われた。  熱を出した俺を抱いて歩く光瑠さんの姿を見ていた参加者は、通りで献身的だった筈だと納得していた。 「私の息子が広海さんの学校に通っているので、輝君の話を聞いたことがあるんですが……。光瑠王子は彼のどこに惹かれたんでしょうか」  暴力男だって話か。と、光瑠さんの手が肩から頭に移動して、そのまま頭を撫でられる。 「輝君の存在全てが可愛いく思えるんですよ。夜景に目を輝かせた顔も、すぐにはしゃいだことを恥じて気にしてない振りをしながらも凄く気になってソワソワしていたところも。眠くてぼんやりしている顔も、美味しいパンに夢中な姿も」  顔が熱い。頬も耳も、熱くてたまらない。と、光瑠さんがこちらを向いて微笑んだ。 「今、そうやって照れている顔も、愛おしくてたまらないんだよ」 「ッ…………見ないでください」  熱い顔を腕で隠す。ぁああ、恥ずかしい。 「って言われると余計、見たくなるんだよね。ほら、輝君。赤くなった可愛い顔を見せて」  そうやって優しく言うのはずるい。 「俺なんか可愛くないです」 「ふふ。頬もこんなに赤くして。——というのが輝君の可愛いところです。勿論、彼の魅力は他にもありますが、俺だけの秘密です」 「…………成る程……」  俺の魅力ってなんだろう……。

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