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カフェのドアを開けると、カランというベルの音に夏菜の「いらっしゃいませ!」が重なった。
スマホで撮影しながら入ってきた槊葉に、彼女は「また?」という顔をする。そのまま適当な席に腰かけた。
ここは夏菜が経営している横浜の小さなカフェ『DROPS』だ。手作り感漂うウッディな内装が隠れ家的な落ち着いた空間を作り出している。が、今日はなぜかいつもと違う音楽が流れていた。
「また宇多田ヒカル?」
「うん。今お客さんいないから……」
「ちょっとなっちゃん、俺はお客さんじゃないの?」
突然奥の席から誰かが声を張った。振り向くと頬づえをついた男が手を振っている。
「げ……」
「ごめーん。大輔くんお客さんって感じしなくて」
舌を出して謝る夏菜を見て彼は笑う。
(お客さんって感じしないって身内枠ってこと!?)
嫉妬の炎が揺らめいた。
安藤大輔という男は槊葉が遊びに来る時間帯に高確率であらわれる店の常連客だ。必然的に顔を合わせる機会が多く、正直うんざりしていた。
なぜなら夏菜の元同級生らしく、妙に馴れ馴れしいのだ。
(今日も来てる。絶対夏菜ちゃん狙いだろ!)
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