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 安藤とのかみ合わない会話やおもちゃにしか見えないガラケを眺めていると、ひとつの可能性が頭に浮かんだ。 (君の名は……? ってかあれはアニメ!)  もちろんノンフィクションに君の名は現象が存在しうるはずがない。  槊葉はクイズのようなノリで安藤その二に尋ねた。 「今日は何年何月何日でしょーか」 「平成十四年五月二十日だけど」  いやいや元号変わったばっかだし、と内心冷や汗をかきながら安藤の顔を見る。からかう様子はない。なんなら心配そうな瞳さえ向けてくる。 「なるほど、これ夢だ!」  ひらめいた答えに槊葉はウンウンうなづいた。  自転車に吹っ飛ばされた衝撃と失恋のショックで気を失っているに違いない!  謎がとけたはいいが、少し前の状況を思い出して胸がズシンと重くなる。 (俺失恋したんだ……。夏菜ちゃんに結婚したい人がいた……)  苦い気持ちが急激によみがえり、槊葉はその場に座り込んだ。驚いた安藤その二――否、安藤本人が慌てて隣にしゃがみ込む。 「大丈夫? やっぱどっか打ったんじゃ」 「俺、さっき失恋したの……」  情けなく涙を浮かべる槊葉に、安藤少年がポケットティッシュを差し出した。かける言葉が見つからないのか無言のままだ。

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