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「俺さ、今まで夏菜ちゃんしか撮ったことないんだ。けどもう終わりにする。夏菜ちゃんのいない世界をフレームに収めて、ちゃんと前に進もうと思う」
諦め混じりに笑ってビー玉人間を安藤の眼前に突き出し、槊葉はヘリウムボイスで続ける。
「オレ様の失恋旅行ロケに同行させてやるぜ。そんでオマエも前に進め」
泣いたり笑ったり忙しない相手に安藤は圧倒されっぱなしだったが、指人形のようにしてビー玉に声を当てている高校男子が滑稽に見えたのか、突然ふっと笑みをこぼした。
「しょうがないな。付き合ってあげてもいいよ」
人差し指でビー玉の顔をつついた後、下からのぞき込むようにしてイタズラに笑ってみせた安藤に思わずドキリとする。あのキザったらしい大人の安藤と同じ顔をしていた。
バシン。
「いたっ」
なんとなくムカついて頭を引っぱたくと、理不尽な仕打ちに安藤が睥睨する。「ごめんつい」と言い訳をしつつ撮影プランに話題を切り替えた。
「大輔はビー玉くんを持つ係な。この街を旅してる設定でオレがカメラを回す」
「さっきの映像って全部君が作ったのか」
「そう。スマホで撮っただけだけど」
「本当に? あんなの自分で作れるの?」
別に動画の一つや二つ作れたからって珍しくもないだろうに、安藤はアーモンド型の瞳をビー玉みたいにまん丸にして驚いている。
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