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第2話

「ん?」 「母さんが単身赴任の親父のところに行くから、今日から俺が一人暮らしになる、その今日の朝に、なんで唐突に言う?」  睨み上げた着替えもメイクもばっちりの我が母親は、妙にカワイコぶるように首を傾げてみせる。 「だって竜大、先に話したらごちゃごちゃ言うでしょ? だから今。じゃあ母さんもう行くから。しのちゃんと仲良くするのよ。それじゃあね」 「ちょっ、マジで待てってば! おい!」  昔陸上をやっていたという素早さは今も健在で、俺がイスから立ち上がるより早く、母さんはさっさと荷物を持って家を出て行ってしまった。  残されたのは、今思えば機嫌取りだったらしい妙に豪華な朝食と、くしゃくしゃの写真。そして呆然としたままの俺。  居候?  しかも二人きりだなんて。あまりにアニメやライトノベル、はたまたエロゲーの中の出来事のようで頭がついていかない。 「大学生の息子一人のとこに、昔とは言え恋人だった子を送り込むとか……」  信用されてるのかナメられているのか。  ともかく崩れるように再びイスに腰を落として、写真を見返す。  一緒に遊びに行ったひまわり畑で撮られた写真。その中の大輪のどのひまわりよりも満開の笑顔は、見てるこっちがつられて笑ってしまうほどいい笑顔だ。  今見てもやっぱり可愛い。  この子が、今日家に来るのか。  いや、それどころじゃなくてこれから一緒に住むのか。あまりにまさかの再会すぎて、実感が持てない。  ……あのまま育っていたら、きっとスポーツ万能な笑顔の可愛い元気少女って感じだろう。いや、もしかしたらがらりと変わって清楚なお姉さん系になってるかも。ギャル系だけは勘弁してほしいけど、しのだったらそれはそれで可愛いかもしれない。  でも、向こうは大丈夫なんだろうか?  これでもいい年した男だぞ? ガキの頃に仲が良かった相手でもほとんど初対面のようなものだし、そんな男と二人っきりで同じ屋根の下とか、平気なのか?  ……もしかして、そうなってもいい気持ちで家に来るとか? 向こうはずっと許嫁の約束を覚えていて、俺の奥さんになるために色々頑張ってきて、その最終的な段階として親公認の同棲、そこでしっかり結ばれて結婚、みたいな。  結婚前提の付き合いってのはちょっと重いけど、可愛い子に好意を持たれるのが嫌な男はいないし、本当にそうならちょっと覚悟が変わってくる。  しかも相手はしのだ。可愛くないわけないし、俺だってまんざらじゃない。結婚自体にそれほど興味はなくても、やっぱり可愛い子といちゃつきたいってのは男として当然覚える感情なわけで。  とりあえず、今彼女がいなくて良かったと思う。浮気とか、そういうのでごたごたしたくないし、別れ話で問題になっても困る。  ……まあ、ここまで考えといてなんだけど、それはすべて俺の妄想で、普通に下宿として使うだけかもしれない。小さい時に遊んでいたからこそ、逆に「男」と意識してないって可能性もあるんだから。  なんにせよ、悩んだ所で来るものは来るんだ。なるようになるしかないだろう。

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