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第6話

控えのの間に戻った僕は、踵の高い靴を脱ぎ捨てて、カウチに横になった。 頭に被されている薄布を取ろうといたら、マリアスにその手を掴まれた。 胸元まで垂れ下がっている布を(まく)られ、頭の上で折り返され、後頭部に布を流された。 視界がクリアになった。 「誰がくるかわからないので、薄布は取らないで下さい」 と、マリアスに(とが)められた。 「来る予定でも」 「ガトーシュ王」 「まさか。僕には興味なさそうだったよ」 「あなたには興味がなくても、イリス王国のイリ神殿の第四神官位には、興味がおありのようでしたよ」 「無神官位だとわかったら、斬首かなぁ」 と、乾いた笑い声をだした。 「本当に神頼みになってしまいましたね」 と、マリアス。 「雨乞いや水脈を探すほうが楽なんだけどね。晴れないから『星見』も出来ないし。太陽の位置が把握出来ないから、正確な方向もつかめないのは厄介だよね」 神職は魔法使いでも錬金術師でもない。 ただ無心に一神だけを信仰し、他を排除し、神の声を聞き、神託を降ろすことの出来る愛でられた神官が(まれ)に現れる。 存在するのが奇跡のような神官を現人神(あらひとがみ)と呼ぶ。 最後に現れたのは、120年程前と記録されていた。 そのような人間に、ほとんどの人は(せい)を受けている時に出会えることはない。 神を(あが)(たてまつ)る。 それが本来の神職の仕事だ。 神の教義を人々に布教していく者だ。 人々の願いを叶えて頂くために、祈るのではない。 「方位盤で把握して下さい。神職が持たないものまで持ち込んで、荷物が(かさ)んでしまいましたよ」 と、マリアス。 「誓詞書だけで来る人って、本当にいるの?」 「いるんじゃないですか。敬虔(けいけん)な教徒なら。あなたのように、それさえ持って来ようとしない人もいるし」 「だって暗唱しているから必要ないものだし。それに重いんだもん。でも、おまえが無理矢理箱に積めてたの見たよ」 「まさか重いのが嫌で暗記したんですか」 と、問いに、すかさず(うなづ)いた。 「必要がなくても、目に見える形に人は安心するものですから」 と、呆れ顔のマリアスだ。 「おまえが適当に入れた書だけど、あれ天候関連じゃないよ」 「古代語なんか理解出来るのは、神職くらいですから、問題ありませんよ」 「ここの神官長ならすぐにわかっちゃうだろうが」 「人払いして、(おが)めば誰にもばれませんよ」 「だ~から、最初から誓詞なんていらないの」 「駄目です。ふりでよいので片手に持って下さいね」 と、マリアスに念を押された。

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