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第7話

イリ神殿に居を構えて3日が過ぎた。 王都グラナダのイリ神殿は、イリス王国の王都イリアのイリ神殿の規模の1/5にも満たなかった。 イリアの神殿で6年間暮らしたが、奥深いところを拠点に行動していたので、限られた人数の者としか接点がなかった。 ここは小規模な建物なので、沢山の人々と関わりを持ちたくなくても持ってしまっていた。 朝昼晩と最低でも現れる最高責任者の神官長を筆頭に、高位下位の神官に王政を司る文官や武官や商人までも接見を申し出ててくる始末だ。 そして、一番驚いたのは拝礼にやってきた一般民と顔を会わす程、警備が手薄だということだった。 目まぐるしい人の出入りに心底辟易していた。 神殿の奥深い部屋に居室を用意してもらったが、対して奥深くもなかった。 「引見(いんけん)の申し出は受けていませんが」 と、マリアスの声が珍しく剣を帯びていた。 引見か。 身分の高い人の訪問のようだ。 きっと、王族か貴族だろう。 「お待ち下さい」 と、控えの間で、マリアスが大きな声を出していた。 どうやら客人は、強行突破を試みようとしたらしい。 昨日も強引な商人がやってきて、神事に必要な物を押し付けようとしていた。 僕は必要ないと伝えたが、神官長が新しい方がイリ神がお(よろこ)びになると言い、色々と買い揃えていた。 味をしめた商人が、また商いにきたのだろうか。 他国に金を落とす気なんか更々ないが、買うのがこの国の神官長なら、自国て経済が回ってよろしいではないか。 今の自分の格好は神官装束だが、白くて何枚も(かさ)ね着をした重い礼装ではない。 簡易な黒い神官衣に黒い薄布を被った格好だった。 カウチに横たわったまま、客人を迎えた。 礼儀をわきまえない人には、それなりの対応でよい。 おしの強い客人を見て、僕は体が固まった。 謁見時にはろくに顔も見れなかったが、彼がタスマニア王だと直感した。 一国の元首が先触れも寄越さす、供も連れずに単身で訪れたのだ。 「陛下、段取りを踏んで頂けなければ、あなた様でも神官様には会わせられません」 と、マリアスがタスマニア王の行く手を(はば)んだ。 「名は?」 と、タスマニア王が問い、 「マリアスです」 と、マリアスが答えた。 「マリアス、ここでは(ちん)が法律だ。()の地を踏みたいのなら、今すぐ出ていくことだ」 「ですが、神官」 「筆談なら朕がする」 マリアスの言葉をタスマニア王は(さえぎ)った。 僕は立ち上がり、 マリアスに大丈夫だ、と頷いてみせた。 「……わかりました。ご用があればすぐにお呼び下さい」 マリアスは、立礼をして控えの間に退出してしまった。 閉められた扉の向こうがとても遠くに感じた。

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