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第3話

「レイク様。お時間です」 従者のマリアスに促され、控えの間のカウチから立ち上がった。 イリ神教徒の白い礼装を身につけた僕は、マリアスの後を歩きタスマニア王との謁見に向かった。 僕の従者は、イリス王がイリ神殿をでる時につけた者だった。 神殿の奥の奥で暮らしていた時の従者とは違っていた。 6年間、僕の身の回りの世話をしてくれていたケイではなくて、茶色の髪に茶褐色の肌の持つマリアスは、自分よりいくぶんか年嵩だと思われる男だった。 他にも神殿から出た時に、つけられた従属が11名いたが、名乗られなかったので名前は把握していない。 長雨で増水し流れが速くなった大河クスリス川を逆走するわけにはいかず、雨の中、陸路で馬車に揺られながらタスマニア王国の王都グラナダに着いた。 王宮ルイ・ロゼ宮殿まで2週間も費やした。 長旅で着ていた普段の長衣の神職服から、礼装の神官衣に着替えたが、何枚も重ね着をさせられて重くて仕方がない。 頭から被されている薄布が視界を遮り、宮殿の装飾を堪能出来なかった。 神官位を持たない自分が、けっして着ることが出来なかった高位神官の衣装だ。 体裁だけを重んじるイリス王の差し金に違いなかった。 厳かに歩く高位の神官の意味がわかった。 踵の高い靴を履かされ、床を踏み鳴らす音が下品だが、体重がかかってしまい、それも仕方がないのことだった。 案内された閲覧の間には、タスマニア王と執務官などの高官が控えていた。 顔をあげるなと言われているので、頭は項垂れたまま、部屋に入り、俯きながらマリアスの後をついていった。 タスマニア王の前で従者であるマリアスが、平伏し膝をついた。 僕は膝を少し折り、(こうべ)を垂れた。 神官が膝をつくのは、神と自分が認めた主のみである。 「イリス王国イリ神殿第四位官位神官レイク・ラ・ゲル・メル・イリスにございます」 と、僕にかわってマリアスがつげた。 かなりのはったりをさらりと言えるマリアスに、内心詐欺師だと笑んでしまった。 神殿に(こも)っていた6年間、一度も神官位試験を受けさせてもらえなかった。 一位から十位まである神官位だが、見習いの域をでていないのが実状だ。 一位は大神官、二位は巫女姫及び次期大神官候補者、三位は各地にあるイリ神殿の神官長だ。 次の位が四位である。 出世すれば地方の神殿の長になれる地位だ。 嘘をつくには妥当な神官位だ。 個人の依頼ではなく、国からの依頼には似合う地位だった。 本当に神官位があればだが。 神官位なしがばれれば、戦争になるかもなぁ。 馬鹿なことしたなぁ、伯父上も。 思わず口元が笑んでしまった。 薄布で覆われている俯いた顔では、笑っているのはわからないはずだ。

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