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第2話ため息もEDも止まらなくて
「はぁ……」
隆幸さんが仕事へ行っている間、俺はパソコンの前で文章を打ち込みながら何度もため息をつく。
もっと甘い生活を期待してたのに……なんでこんなに泣きたくなる生活を送らなきゃいけないんだよ。
エッチができないからって、それだけで隆幸さんのことを嫌いになんかならない。体の関係が嫌なら嫌で受け入れるつもりだ。それが隆幸さんの望みなら。
今の関係を望んだのは俺からだった。
高校生で荒れた生活を送っていた俺に、危なっかしいからってゲーセンで声かけてくれて、弟みたいに構ってくれて――隆幸さんのさりげない優しさに救われて、俺は恋に落ちた。
想いを自覚してからは、とにかく押した。押して、押して、あからさまに好意があるとバレても気にせず押しまくった。満更じゃない反応に手応えを感じて告白したら、隆幸さんは腕を組んで唸り出した。
とにかく付き合えるなら、どんな形になってもいいと思っていた。だから俺は隆幸さんの肩を掴んで訴えた。
俺が抱かれる側でいいから。尻の悩みは俺が受け持つから、と。
ここまで言ってようやく隆幸さんは俺に頷いてくれた。
後から聞いた話だが、俺が積極的に押し始めた頃からすでに意識してくれていたらしい。でも尻を掘られることに抵抗があり過ぎて、自分から関係を前に進めることができなかったと隆幸さんから懺悔された。
隆幸さんの仕事が忙しくなる前までは、会えばエッチしていたし、途中で萎えることもなかったから、俺とのエッチが嫌になったワケではないだろう。
すべては許容オーバーな多忙さのせい。
こんなことで隆幸さんとの関係にヒビが入ってしまうなんて許せなかった。
記事をキリの良い所まで書き上げてから、俺はネットでEDに効果のあるものを調べてみる。
本当は病院で診てもらうのが一番だろうが、あの忙しさじゃあ通うのは無理だ。いっそ仕事をやめろと言いたいところだが、ここしばらくが特別であって、もう少しで修羅場は抜けるらしい。となれば、食事に気をつけつつマッサージするぐらいしか俺にはできない。
「はぁ……まだ隆幸さん三十なのに……もっと自分を大切にしてくれよ」
言えば追い詰めるだけだから本人には言わないが、隆幸さんへのぼやきがポロポロと零れた。
夜。俺はさっそく隆幸さんをベッドへうつ伏せに寝かせてマッサージする。
あまり強く押すと揉み返しで余計に酷くなるから、背中全体をさすりながら、たまにツボをゆっくりと押して、またさすってを繰り返す。
「あー……ありがとな修吾。すごく気持ちいい……」
うっとりとした声を出す隆幸さんに思わず腰が疼く。しばらくおあずけを食らっているせいか、何気ない言動がエロく感じてしまう。
……ちょっとでもその気にならないかな? なんて淡い期待を持ちながら、俺はリラックスしている隆幸さんの耳元で囁いてみる。
「俺も締め切り前とか凝りまくるからさ……覚えて俺にやってくれよ」
ふぅ、と耳に息を吹きかけると――無反応。俺は首を傾げてから隆幸さんの顔を覗き込む。すると、もう完全に寝入ってしまっていた。
すややかな寝息を立てる隆幸さんに、思わずため息をついてしまう。
俺は「……お疲れさん」と呟いてから隆幸さんの髪を撫で、そのまま一緒に寝た。
そんな日々が続いて、やっと隆幸さんが仕事の忙しさから解放された。
これでいっぱい休めば数日後には元気になって――と思っていた。
けれど現実は、いつまで経っても隆幸さんはEDのままだった。
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