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五月。ゴールデンウィーク前に例の事件の裁判を終えると、春也は日本を出る準備を始めた。
彼は思っていた通り、何となく軽そうな男で、柏原さんとはタイプが違った。ただ、話してみると気さくで、嫌な感じはなく、柏原さんもにこにこしていたせいか少しむかっとした。
でも春也は、訳知り顔で俺と柏原さんとのことを喜んでいたから、何となく憎みきれず、荷造りを手伝うことになった。
どうして春也に会うことになったかと言うと、弁護士問題のせいだ。春也は美容師で、そのお得意様に弁護士がいるからと紹介してもらえた。病院の個室も、実は柏原さんではなく、春也がしてくれたことらしく、その人望に驚かされた。
結局、よくも悪くも人たらしなのだろう。
裁判は結果として、望む通りの判決が下り、心底ほっとした。
バタバタと駆け抜けた数ヶ月。そこから、世話になった春也の引っ越し。しかも行き先はニューヨーク。
目まぐるしく日々が過ぎていき、世間の五月の連休から数日遅れで二人で休みを取り、春也が乗った飛行機を柏原さんと見送っている。
この人と付き合っている、という実感がほぼない。
会社ではもちろん、そんな素振りはなく、まあ素っ気なさもなくなったが、それはいいとして、プライベートでも一度か、二度外で食事をしたっきりだった。
それでも文句がないのは……。
青い空に白い飛行機が見えなくなると、柏原さんが「帰ろうか」と俺を誘った。
「あ……は、はい」
雨季前の強い日差しに焼かれたうなじがさらに熱を持つ。
俺も春也の引っ越しに合わせて荷造りをしていた。それほど大荷物ではないから、引っ越し自体はすぐに終わったが。
問題は、引っ越し先。
柏原さんに許可をもらい、唯には同居のことを話した。一応、ルームシェアという説明にしたが、何となく察したらしく一瞬、奇妙そうな顔をした。また、祖母を引き合いに出すかと思ったが「遊びに行ったら衛、怒るかな」と聞かれ、ほっとした。
「怒らないよ」
「ふうん……嫌われてたんじゃなくて、よかったね」
あれがたぶん、唯の精一杯の祝福だったのだろう。
空港を出て、柏原さんの車に乗り込む。
来る時も乗ったはずなのに、春也がいないだけで全然雰囲気が違った。
勝手にドキドキし始める心臓にめまいを感じていると、柏原さんが車をバックさせながらくすりと笑った。
「やっぱり君、顔に出すぎじゃない?」
「えっ……あ」
思い当たり、小さく謝る。
退院して会社に復帰した時、まだ柏原さんとの距離をはかりかねていて、俺一人がギクシャクしていたら安達に一瞬で交際を見抜かれた。
その日は反省会というか、柏原さんにしっかり説教を食らった。安達だからよかったものの、面白おかしく吹聴する輩に知られたら仕事どころではなくなると俺も反省した。それは、男女でも同じことで、柏原さんが特別なことを言っているわけではなかったから、浮かれた気持ちが一気に引っ込んだ。
それ以来、食事はしても引っ越し作業以外で二人になることはほとんどなかった。
「……柏原さんは緊張とかしないんですか」
俺ばかり何か期待している気がして恥ずかしい。柏原さんには恋人との同棲経験があるから仕方がないのかもしれないが、それでも何となく嫌だった。
柏原さんは運転しながら「あまり、考えないようにしてる」と言って笑った。
「考えないようにって……」
柏原さんはちらっと俺を見て、微笑んだまま黙って車を走らせた。
考えないように、というのは、緊張するから考えないようにしてる、ということだろうか。
恥ずかしいようなむず痒さを感じながら、柏原さんの横顔を眺めた。
最近は、少し髪が伸び気味になっている。散髪を面倒くさがるからだ。春也は美容師だから、整えてくれたのかもしれないが、俺にはできない。近々、床屋でもどこでもいいから俺が予約をしないとだらしなくなりそうだった。
整髪料をつけていない今日は長めの前髪が下りていて、何となく普段と雰囲気が違う。何でだろうと考えて、そうかとひらめく。
「ねえ」
信号で車が止まり、柏原さんがこっちを見た。
ここの信号機に今朝も捕まり、赤が長いと柏原さんがぼやいていた。だから、待ち時間に何か言いたいことでもあるのかと思ったが、ただじっと見つめてくるだけで何も言わない。
「……な、なんですか」
じっと見られて気まずくなり顔を前に向ける。それでもしばらく見つめられたままで、そわそわする。
何でそんなに見てくるのか。
落ち着かないまま信号が青に変わり、車が走り出す。ちらっと柏原さんを見ると前を向いていてほっとする。
それが伝わったのか、柏原さんが笑った。
「な、何で笑うんですか」
「僕の気持ち、少しはわかったかなって」
「え?」
「見すぎだよ。恥ずかしい」
あ、と思って俺も恥ずかしくなる。気づかなかった。
柏原さんは微笑んだまま俺の手を握った。指を絡めて、そのまま俺の膝の上で温かくなる。
手を見た。四角い爪をしている。
何でこんなことが気になるんだと外を見た。
もうすぐマンションにつく。見慣れた景色のはずなのに、新鮮に感じた。
落ち着かない。嫌じゃないのに居心地が悪い。握られた手がじっとり汗ばんで恥ずかしい。ただ、そう、嫌じゃない。嫌じゃなくて、戸惑う。
それは何となく予感があるからだ。
普段みたいに食事だけならこんなにお互いそわそわしない。
駐車場に入ると、名残惜しそうに柏原さんの手が離れていった。車を停めて、エレベーターで部屋へ向かう。狭い箱の中は蒸し暑くて、背中に汗をかいた。
部屋の扉の前まで来ると急に心臓がバクバクしてきた。
柏原さんが先に入り、俺の方を振り向く。
「……おいで」
差し出された柏原さんの手を、震える手で掴んだ。軽く部屋の中へ引っ張られる。
「怖い?」
扉が閉まると柏原さんが聞いてきた。手が震えているからだろう。
首を振った。
でも、震えが止まらない。
デリヘルで、始めて客をとった時でさえ、こんなに緊張はしなかった。初めてのことなんてないはずなのに、自分の反応があまりにも初々し過ぎて痛い。そんな年じゃないはずなのに、目が回るほど緊張していた。
「君の嫌なことはしないから、僕に任せてくれない?」
「……え、で、でも」
「緊張がほぐれるまでは変なことしないから」
前髪の上から軽く額にキスされて、気持ちがこそばゆい。
冷静に考えたら中年の仲間入りを控えた俺と、中年只中の柏原さんという男ふたりでぎこちなくキスしたり、触れ合ったりするのはどこか滑稽な気がした。
でも、今はそうしていたい。世間の目なんてどうでもよくて、妙に緊張を掻き立てる冷静な自分もいらない。
二人の寝室に行き、ベッドで服を脱ぐ。カーテンは閉めたままで、外の薄明かりが漏れている。その薄明かりで昼間だということを痛烈に感じ、悪いことをしているような気分になる。
ベッドをきしませ、上を脱ぐと、同じように上だけ裸になった柏原さんに押し倒される。年相応なたるみや衰えはあまり感じなかった。前髪が下りていて、引き締まった体のおかげでかなり若く見える。密着すると、夢みたいなにおいがした。そのにおいを強く感じたくて柏原さんの背中に腕を回すと、耳にキスが返される。
「んっ」
今朝、全身くまなく洗ったし、そこまで汗もかいていないから、汚くはないはず。
耳からそのまま唇が首筋を這い、片手を俺と繋ぐ。
「嫌じゃない?」
嫌じゃない。嫌なわけない。ただ、言葉にはできなくてうなずいた。
「キスしていい?」
目を閉じてうなずくと、感触を確かめるようにゆっくりと唇が触れる。頭を撫でられた。舌がからめられる。
幸せだと思った。
幸せで泣きたくなるのは初めてだった。
「腰、上げられる?」
唇をくっつけたまま、ズボンと一緒に下着を下ろされた。性器が外気に触れてひやりとする。柏原さんに緩く握られた。すでに濡れているそれの先端を指でくにくにと刺激する。
「んっ……ん……」
気持ちいい。
俺が完全に勃起すると柏原さんの手が後ろに移動する。
「足曲げて……そう」
柏原さんが足の間に来て、両手で膝を開かれる。再び後ろに触られて体が強張る。
「っあ……いや……」
指が入ってきた。目を閉じる。
「ローション使ってないけど、指くらいなら入るね」
柏原さんがどういう意図でそんなことを言ったのかわからず、急に怖くなった。柔らかいのは今日のためにここ数日、自分でほぐしたからだ。
でも、金をもらって男に抱かれたことを責められているような気分になる。
「も、指じゃな、くて……」
見られていると隠し事がばれてしまうような恐ろしさを感じた。さっきまではそんなこと、ひとつも考えなかったのに。
抱いてほしい。でもやっぱり、怖い。痛くてもいいから早く繋がりたい。考えることもできないくらい、激しくしてほしかった。
柏原さんが指を抜く。挿入かと身構えたが、また性器を触られた。
「あっ、ん……」
「こっちの方が気持ちいい?」
後ろより、ということだろうか。
あごを引くと柏原さんは「そう」と呟き、すっと屈んだ。
そして、あっ、と思った時にはすでに、その口に俺の性器が触れていた。
「っや! いや!」
慌てて飛び起きる。
柏原さんが膝立ちできょとんとしていた。そして申し訳なさそうに「嫌だった?」と尋ねてくる。
「ごめん、もうしないから」
「あ、違っ、嫌とかじゃ……」
柏原さんが小首をかしげた。
フェラは、何度もした。させられた。気持ちいいのだろうが、する側としては気分のいいものじゃなかった。屈辱的だし、苦しい。こんなこと、柏原さんにさせられない。
「お、俺がします」
這い寄って柏原さんのズボンに手を伸ばすと、手首を掴まれて止められた。
「え」
「嫌じゃないなら、僕にさせてくれないかな」
「で、でも」
「噛んだりしないから」
そんな心配はしてない。
的外れなフォローに右往左往している間に、また仰向けに転がされ、柏原さんが軽く俺の性器を掴む。
「あ、や、嘘っ……」
躊躇なんてない。ぱくりとくわえ込むと、根本を手で刺激しながら棹を唇と舌でしごかれる。柏原さんにフェラをさせるなんて。妄想だってしなかったのに。
温かい口内。粘膜の柔らかさを感じる。くぽ、ずるるっと下品な音が恥ずかしかった。柏原さんの頭が規則的に上下する。
「あぅ、あっ……あんっ……」
こんなことさせて、俺だけ気持ちよくなるなんてだめなのに、射精したくなってきた。
ぐっと腹に力をこめて我慢するが、柏原さんの舌がぬるりぬるりと先っぽを刺激するたび、痺れたように力が抜けた。
「はっ、あ……あっ、だめ……っい、いく、いくっ」
いく、と言えば離れると思ったのに――俺が頭を抑えていたわけでもないのに、柏原さんは口で俺の精液を受け止めた。
出している最中もちゅ、ちゅるっと吸われて腰が震える。出して、吐き出してと言わなくちゃいけないと思うのに、柏原さんの口に出したショックで言葉が出てこなかった。
放心状態の俺を見下ろし、再び口を開く。今度は唾液を性器に垂らされ、ぞわりとした。というか、俺の精液はどうなったんだ。
その答えを考える間もなく、再び柏原さんの口の中に愚息が導かれる。達した直後でまだ射精の余韻を強く残したそこを、丹念に舐め、手で擦っている。
「っは……はん、あ……あっ、うっ」
くぷっと奥に指が入ってきた。さっきよりつっかえを感じないのは唾液のせいだろう。手首を使いくるくると中で指を回られる。
正直なところ、今回に限らず、ここが気持ちよかったことはない。暴力的な衝撃で泣き叫んだことは何度もあるが。
その時の記憶のせいだろう、入っているのが柏原さんの指だとわかっているのに、怖くなる。
ほぐしてきたんだから、すぐにでも入れられる。そんなこと、柏原さんだってわかっているはずなのに、指数を増やそうともせず、内壁をゆっくり撫でている。
その間、ぬるぬると性器を舐められ、煮え切らないもの少しずつ溜まっては消えていく。
入れてほしい。めちゃくちゃに揺さぶって、わけがわからなくなるくらい犯してほしい。
後ろじゃ怖くて気持ちよくなれないと知られたくない。
「っ、きもち、い……から、早く」
早く入れて、と、恥ずかしげもなく嘘でねだる。
柏原さんは一旦、フェラを止めてじっと俺を見た。
居心地が悪くなって目をそらすと、ゆっくり指が抜けた。異物感がなくなり、ほっとする。
ただ、それをさとられまいと隠すように柏原さんが入れやすいよう腰を上げた。
「ん」
腿に手が置かれ、挿入を覚悟する。
しかし、手はそうっと腿を撫でるだけで挿入のために足を持ち上げたりしなかった。
不思議に思っていると柏原さんが「ひょっとして」と口を開く。
「後ろ怖い?」
「え」
「あ、いや。違ったていたら、ごめん。強張ってるから、怖いのかと思って……」
さっと血の気が引く。
言い当てられるとは思っていなかったせいで、とっさに言葉が出てこなかった。
「あ、いや……」
言いよどむと、柏原が眉尻を下げ「やっぱり、そうか」と、手を離れさせる。
やめる気配を感じて、俺は「違うっ」と大声を上げ起き上がった。
「だ、抱かれたいんです」
勢いで続けて、引っ込みがつかなくなる。
「ほっ、本当に俺、今日……」
抱いてほしいと思ったあの日から、ずっと、ずっと、今日を楽しみにしていた。
この人に買われて、恋人のふりをしている間も、寺岡に犯されている時も。この日を期待せずにはいられなかった。
でも、体は違う。体が痛みを覚えている。
もしかして、と。
もしかして、魔法みたいに柏原さんの指だけが、愛撫だけが特別で、どこを触られても感じるかもしれないと思っていた。でも、そんなことはただの幻想だ。
この人の愛撫を怖いと思う体に嫌気がさす。
目の前の柏原さんの顔が涙で歪んだ。
「俺……」
馬鹿なことをしてきたせいで一生、柏原さんを感じられなかったらどうしよう。
あんな仕事をしていたくせに、まともにセックスできないなんて。
最悪だ。欠陥もいいところだ。好きなのに、抱いてほしいと思うのに……。
俺が黙り込むと、柏原さんが側に来てくれた。
「そんなに急ぐことないよ」
髪をすかれる。ふっと淫靡なにおいが鼻をかすめた。
抱き締められてベッドに転がると、柏原さんが失笑する。
「両手ともベタベタでごめん」
「……あ、いや……」
知られたら、嫌な顔をされるかと思っていたのに、柏原さんはこっくりした笑顔で俺を見ている。
「怒らないんですね……」
「怒らないよ。そりゃ、ね。残念だけど、それは遠野だってそうだろう?」
「……はい」
目を見ると柏原さんの、急ぐことないよ、というのが本心だとわかってほっとしたし、キスしたくなった。目を閉じたらキスしてくれるような気がして、目を閉じると、優しく唇が重なった。
柏原さんが俺の性器を触る。萎えかけたそこにすぐ熱が戻ってきた。俺も柏原さんの股間をズボンの上から触った。
「硬い……」
「まあ、ほら、それは」
柏原さんが笑う。さっと自分で服を脱ぎ、俺のに性器を重ねた。
俺より一回り大きい。見ているだけでどきどきしてくる。
柏原さんは俺のと一緒に握って腰を動かす。俺のやつが濡れているからにちにちと音がして滑る。
「あっ……あ……」
「気持ちいい?」
声を聞くと、背筋がぞくっとする。
正直にうなずくと「僕も」と柏原さんが息を吐く。俺も手を伸ばして先走りを広げるように触ると、柏原さんが「気持ちいい」と笑った。
これ気持ちいいんだ。そう思って、柏原さんの反応を見ながら触る。そうしているうちに自分の射精の予感が強くなってきた。
「ん……っぁ、か、柏原さん……俺、いっ、いき、そ」
「僕も……」
自然と手の動きが早くなる。
俺が腰をひきつらせるのと、柏原さんが小さく息を詰めるのがほぼ同時だった。
ぴゅる、びゅっと腹に熱いものがかかる。柏原さんがゆっくり性器をしごくと中に残ったものまで出てきて、シーツに垂れた。
「ん……っは……」
体がじんじんして動けずにいると、柏原さんがさっと体をティッシュで拭いてくれた。あっと言う間に片づけがすみ、一息つくのかと思っていると、萎えた性器の先っぽにキスされて体が跳ねる。
「や、休まないんですか……っ?」
「僕はまだ一回だから」
確かにそうだ。
俺は二回で、柏原さんは一回。そうだとしても、一度出せば俺は怠くなるのに。
「寝てもいいよ。入れないから」
「ね、眠れませんて、そんな……あっ」
性器を手でしごかれる。内腿を柏原さんにきつく吸われてぢりっとした。肘を立てて上体を起こすと、内腿にキスマークが出来上がっていた。
柏原さんにつけてもらったキスマーク。
嬉しくてじっと見ていると、柏原さんがふっと笑った。
「嬉しいの?」
当たり前なことを聞かれて、改めて答えるのが恥ずかしい。
「消えないうちにまたつけようか」
優しく内腿のキスマークを吸われた。
こんなの、ただの内出血だ。
でも、寺岡に打たれて作った内出血とはまるで次元が違う。痛みの余韻さえ気持ちいいと思えて、もっともっととねだりたくなる。
柏原さんが、はぁと熱い息を吐く。
「だめだね」
「え?」
俺の腿に頬を寄せる。
伸び気味の髪がくすぐったい。
見つめると、甘い目をした柏原さんと目が合う。
「君触れたくて仕方がないんだ……」
低い声で、とろけるような囁き。
そう言われた瞬間、強烈に体が疼いた。なぜかわからないが、くんっと腹の奥が反応する。
「あ……」
「ん?」
今さらこんなことを言ったらあきれられるだろうか。いや、そうだとしても触ってほしい。
俺はずっと、本当に、あの日から。
「か、柏原さん。俺、やっぱり」
予め枕元に用意していたローションボトルを手に取り、柏原さんに渡す。柏原さんはボトルを受け取ると、俺を見つめ、微笑むように目を細めた。
「……ありがとう」
そう囁く。
そのありがとうはボトルを渡したことだろうか。それとも。
柏原さんがボトルのふたをとる。
「遠慮しないで、痛いとか、怖いとか言っていいからね」
「はい……」
ローションを手のひらで温めながら言われ、ぎこちなく返事をした。でもそんな心配はいらない気がして不思議だった。
指が入ってくる。
「……ん……」
嫌じゃない。さっきと違い、むしろ奥が疼いて腰が自然と揺れるせいで恥ずかしい。
俺の様子を見ながら、ゆっくり中の指が増やされていく。
「うっ……んぁ……」
「苦しい?」
首を横に振った。
三本入った時、じわっと気持ちいいような気がして額に汗がにじむ。
柏原さんが指を抜いた。
ゴムをつける音がする。
「本当に嫌だったら止めるから」
強く勃起した柏原さんの性器がぴったりとゴムに覆われる。
いよいよだ。
少しも怖くはない。むしろ期待している……。不思議だった。こんなことがあるなんて。
「いくよ」
熱があてがわれた。神経がそこに集中する。ゆっくり挿入が始まり、声が漏れた。
「うぅ……ぁああ……っ」
まるきり、初めてと同じ。ただ、無理に入れられて血や便で滑らせていた時とは違う。みっちりと中を埋める熱が体の奥から快感を引きずり出してくる。
柏原さんが俺の性器を触った。
「んあっ」
「……気持ちいい、みたいだね」
安心したような柏原さんの声に奥が勝手に動いて中の肉を締め付ける。
「あ、あっ、や、変……っ俺、なんで……っ」
「ううん、変じゃないから大丈夫だよ」
キスされた。動くよ、と、柏原さんが言った。
それに俺がうなずくのを待って、少しずつ抜いたり、入れたりされる。出し入れされると小さくローションが音を立てて、繋がっていることを耳からも感じる。
「うっ、あっ、あっ、んっ」
少しずつ柏原さんの動きが早く、激しくなってきた。
自分の掠れた声。柏原さんが時々息を詰める。持ち上げるように掴まれた太股が気持ちいい。
「遠野」
名前を呼ばれた。また唇を奪われる。
何度もキスをしながら、中を擦られるたび自分が絶頂に向かうのがわかった。火花が散る気持ちよさで柏原さんの体をかき抱く。
こんなに幸せなのが信じられなかった。
いく、いくっ、とうわ言のように叫んだ俺が達すると、やや遅れて、柏原さんが中で出した。
絶頂の余韻と柏原さんの体重が心地いい。ふわふわした多幸感に身を任せ、微睡むとずるりと柏原さんの性器が中から抜けた。
まだ、入れておいてほしかったな、と、ぼうっとしながら思っていると、かさこそ音がして再び後ろに硬いものが擦り付けられ、眠気が吹き飛ぶ。
「え、や……早く、ないですか……」
「そう?」
俺の膝にキスをして柏原さんが腰を押し進める。
さっきより挿入はスムーズだった。
「っあぁ……ん」
気持ちいい。でも、三回も出せば俺も精魂尽き果てて、腰を打ち付けられるたび、頭がぼんやりして上も下もわからなくなる。
その後も、何度も抱かれた。いきすぎて俺が気を失うと、起きてからまた繋がった。少し食べて、飲んで、繋がって、寝て、また……。
ベッドがぐちゃぐちゃだから、二人で布団を引きずり下ろして床で寝た。
そして、巣にこもるように連休はセックス三昧だった。
少しドライブに行こうと話したりもしたが、シャワーを浴びているうちにムラムラしてきてだめだった。
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