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第5話
*
「ねえ遊ちゃん、最近ちょっと綺麗になったわよね。恋人でもできたの?」
「えっ……?」
僕が犬神さんとそういう関係になってから一週間、弁当屋の仕事中に突然、同僚の山口さんからそんなことを言われた。すると、後ろで調理をしていた店長も。
「あ、それ俺も思ってた!遊ちゃん、ついにコレが出来たんだろ?え?」
「いやっ……そのぅ」
グッと親指を立てられた。でも、どういう意味だろう。
「まあこんな可愛い子がずっと独り身なのがおかしかったのよね~。遊ちゃん、ここ最近ずっと元気がなかったから心配してたのよ。で、どんな子なの?相手は」
「こっ、恋人とかそういうのじゃなくて、お友達です……!」
「なんだ、まだお友達なの」
「ま、まだっていうか……」
犬神さんは相変わらず僕の隣の部屋に住んでいて、毎晩お互い部屋を行き来してその……いやらしいことをしている。こんなの友達じゃないよね……。
犬神さんは『俺と結婚しろ』なんて言ったけど、やっぱり男同士では結婚できないみたいだし、それも犬神さんの婚約話がなくなるまでの話だから……。
「おい、遊」
「ハッ!いらっしゃいま……い、犬神さん!?」
ボケっとしていたら、いつの間にかお客さん……というか犬神さんが僕の目の前にいた!
「昼メシ買いに来たんだよ。デラックス唐揚げ弁当ひとつくれ」
「は、はい! デラックス唐揚げひとつ、お願いしまーす!」
あいよー、と店長が返事をしてくれた。今は山口さんも厨房に入っていて、店内には僕と犬神さんの二人だけだった。
「なあ、今日も6時上がり?」
「はい」
「迎えに来っから、待ってろよ」
「あ……はい……」
でも僕はこんなふうに誰かに甘やかして貰ったことがないから……僕の方はもう、言い訳もできないくらい犬神さんのことが好きになってしまった。
自分でそれでもいいやって思ったくせに、ばかだな僕は……。
だって、アレしてる時毎回このまま死んじゃうんだって思うんだけど、結局いつも生きてるんだもんなぁ……犬神さんは僕が『死ぬ』って叫ぶたびにすごく満足そうな顔してるけど。
そういえば僕、犬神さんと会ってから全然明良のこと思い出してないや。
それはそれで明良も安心だろうし、僕としてもいいことだと思うけど、もし今の状態で今度は犬神さんが居なくなったら、僕はどうなってしまうんだろう。
自分でも分からなくて、凄く恐い……。
「ねえ、あの人が遊ちゃんのお友達なの!?会話が既に恋人同士だったわよ!本当は彼氏なんでしょ!?」
「い、いいえ……残念ながら違います」
「ええ!?でもあの人、遊ちゃんにベタ惚れって顔してたわよ!?」
「アハハ……ないない」
「あるわよ~!!」
本当にそうだったらいいのに。
犬神さんが僕のことを好きだったら……いいのに。
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