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第2話
後ろから矢島の笑い声がして、京也はぼやけた頭を殴られた。
「がっついてんじゃねぇよ。お前の順番は最後だ」
バカにした声。アルファたちが乱暴に京也の腕をつかむ。爪を立てられ、京也はわずかに理性を取りもどした。
何、してんだ俺。
溺れそうになっていたことに愕然とする。こんなに簡単にオメガの蜜は誘惑するのか。
争うアルファたちにはじき出され、京也は無様に床に転がった。ぴちゃ、という濡れた音がして、矢島が青年の口腔を貪り始める。
やめろ、そいつは俺の……違う、これは犯罪だ、だめだ……抱きたい。噛みたい……。
頭を振り、よろよろ立ち上がる。発情しているオメガに煽られているのではなく、変な香のせいだと思いたい。むかつくような甘ったるい香りは、離れたせいで少し薄らぐ。
なんとかしないと。
霞む目でソファーを見る。かぱり、と矢島の口が開くのが見えた。青年はもがき続けている。そのうなじにかかる髪をかき上げ、矢島は青年を喰おうとしている。決定的に、青年の人生を壊そうとしている。
咄嗟に、京也は青年の足を掴んで引っ張った。すり抜けるように青年の体がソファーから落ちる。
服がずりあがったせいで白い腹が見え、京也は目をつぶってさらに力一杯青年の体を引いた。テーブルがガタンと音を立て、香炉が引っくり返る。途端に香りがぶわりと舞う。
「っごほっ」
矢島と、グループのアルファたちがむせ込んだ。
京也自身も激しく咳き込む。慌てて袖を口に当て、青年を強引に引っ張り立たせる。
「立て! 逃げるぞ。おい、しっかりしろ!」
パシッと軽く頬を叩くと、青年は死にもの狂いといった感じで立ち上がった。強くその手を引き入り口に向かう。
「おい! 待てこらァ!」
怒鳴り声を無視し、ドアを勢いよく開ける。
冗談じゃない。集団強姦で人生無駄にしてたまるか。その考えだけが京也を動かしていた。
廊下へ走り出る。エレベーターは、ちょうど他の客が乗り込むところだった。
肩を押し込み2人一緒に乱暴に乗り込む。男性客が驚いた顔をしていたが、かまうものか。ドアが閉まる直前、部屋から矢島たちがよろよろ出てくるのが見えた。
すっとドアが視界を遮る。
「この野郎、ふっざけんな!」
怒鳴り声が追いすがるように小部屋に押し入り、京也と青年の体を震わせ、やがて消えた。
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