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第5話
4年生になる前の春休み、俺の本当の父親は自殺した。
心中だった。相手は同年代の男の人で、母はひどく取り乱した。
その母を支えたのがカウンセラーである今の父。彼は同性愛者だった元妻に、結婚して3ヶ月で離婚を言い渡されたという。
だから、俺は自分がゲイだと自覚してから、そのことを隠し続けた。
でも。
やっぱり自分に嘘はつけなくて、その手の出会いがある公園に行って、一夜だけの関係を求めた。
あの日のことは、絶対に忘れない。
「一晩だけ、どうですか?どっちの役もします。」
遠目に見ても明らかにイケメンだとわかる人に、緊張しながら声をかけた。彼には相手がいくらだっているだろうけど、声をかけるだけならタダだから。
でも、彼が顔を上げて視線があった途端、雷が落ちたような衝撃を受け、心臓が驚くほど強く脈を打った。
一目惚れって、本当にあるんだと実感したことを覚えている。
それは彼も同じようだった。
俺たちは吸い込まれるようにキスをした。周りなんて気にしない。世界には自分たちだけしかいないと、そんな気さえして。
ホテルに行ってシャワーも浴びず、水の中で空気を求めるように、ごくごく自然に絡み合った。
俺は初めてだったけれど、どっちがどの役だとかそんなことも確認もなしにただ彼の雄を受け入れた。それがあるべき形な気がしたから。
祭凛さん。最後に彼の名前を聞いた時、何度でも呼びたいと思った。
結局どうしても一回では終われなくて、俺は彼との逢瀬を重ねたけれど、父に見つかって…。
その日から地獄が始まった。謝ってもずっと殴って蹴られて、学校に行く時以外は家の壁につながれた。
トイレさえ、垂れ流しか父に言って行かせてもらうかの二択だった。二階の窓から出られたら困る、と鎖を長くしてもらうことはできなくて。
学校は送り迎え付き。
それもすべて、お前のためだと言い聞かされた。
お前は普通じゃないから、普通に戻してやるだけだ、と。
もう会わないと約束したら元の生活に戻してやると言われたが、嘘でも祭凛さんに会わないなんて約束したくなくて、俺が反抗するたびにまたあざがいくつか増えた。
相手が祭凛さんじゃなかったのなら、俺は一晩で割り切れたし、父に従ってもう会わないと簡単に言うこともできたかもしれない。
でも、一目惚れで、一緒にいるうちにどんどん好きになっていった彼だから。
ある日、もう限界で、俺は学校に着くとともに、授業など御構い無しに祭凛さんの家へと駆け込んだ。彼は、小説家だから、きっと、家にいてくれる。
「助けて、祭凛さん… 」
「大翔、どうしたっ!?」
彼はひどく驚いていたが、すぐに俺を家に上げて俺の事情を聞いてくれた。
事情を話し終わった俺は気を失うように眠って…
起きた時にはもう、何もかもを忘れていた。
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