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一緒の行動

     *   *   *  周りの喋り声や物音、匂いにつられてやって来る。時間も午後を回って空き過ぎた腹に手を当てながらなにを食べようか考えていた。  学食のものは美味い。 「なぁなぁ航大」 「んぁ?」  突然、加藤に話しかけられた。おすすめABC定食ボードを見ながら肩を叩いて、小声で。 「なんかさ、俺の勘違いならいいんだけど、ここ数日やたら新垣と一緒にいないか?」 「あー……」  本当にどれにしよう。肉もいいけど魚もいい、が、あえてサンド系のパンを選ぶのも悪くない。  まだ暑いが夏本場の時期に起こした食欲の無さよりは食べれるからな。肉にしよう。 「勘違いじゃねぇよ。周りが引くぐらい一緒にいるかもしれない」  頭の中で定食を選びながら食券を買っては加藤に言葉を返す。俺の動作に合わせて動くこいつの目まで疑ってしまから――事態は変わっていないっていうか……。  むしろあの影以降、悪化しているような気がする。  だからか俺からも新垣と一緒にいる機会を作ってしまうんだが、どうなんだろう。 「もっ、もしかして!お前等……!イケメンと航大は……!」  一瞬にして離れた加藤に思わず舌を打って呆れた目をしながら『やめろ』と一言。  どうせ好きなのか?とか付き合ってんの?とか、そういうものだろう。そうじゃねぇのに。……ただ、新垣の周りからもそう思われているとしたら、やっぱり迷惑かけてるよなぁ。 「俺は航大がホモになろうが友人のままそばにいるからなっ!」 「そりゃどーも。しかし俺はホモじゃない!」  加藤の明るい『またまたぁ!』なんてノリが懐かしく思えてくる。  新垣と一緒に行動したり時間を過ごしたりしているのは本当だ。だからか加藤や伊崎と一緒にいる事が少なくなってきてるような気もする。というか、絶対に少なくなってる。  今だって話すのが久々な感覚に落ちてて、実際は朝に挨拶をした程度。  新垣が俺に気を遣って人目の付かない場所を選んでは気持ちを紛らわすように話したり、ゲームしたり、オススメの漫画を用意してくれたりと様々なものをやってくれてるんだ。  おかげでたまに感じていたおかしな視線もなく――今でもたまにあるっちゃあるが――平和に過ごせている。  今、ここだけは。 「でも航大と遊べてなくて俺も伊崎も結構寂しいんだぜ?というかどうよ、今度の放課後あそこのバーガー食べにとか」  急な誘い。すぐにでも二つ返事で頷きたいものだ。けど悪化している行為はもう吐き気ものだから。  言われていた写真とかスマホに非通知電話とか、手紙だけじゃなくてメールもすごいんだよなー……。ウザすぎてもうスマホは鞄に入れたままだけど。  携帯を携帯してなくて新垣からちょっとした怒りをくらったが、落ち着かせようと『今はお前がいるからいいだろうよ』と言ったら納得してなさそうな表情を浮かべていた。  突発とはいえ、この言い方は少し改めたほうがよかったかもしれない。  それに精液塗れの手紙もまだ届くから。  新垣に言えばあいつすげぇ男前で普通に触って中身も見ずに捨ててるんだ。もちろん手は念入りに洗っていたが、いやぁ……あれはすごかった。  けど一緒に居過ぎなのは事実。周りからホモだと言われてもしかたがないよな。 「ん、空いてる日あったら言うからちょっと時間くれ」  加藤にも、伊崎にも言えないストーカー事情に俺は苦になりながら返せば加藤は笑顔で『絶対だからなー』と言ってくれた。 「はぁ……」  溜め息を吐きながら出来上がった定食を持って椅子に座る。  正直、新垣がいる時はよくても、いない時の方が疲労感がハンパない。家にいる時なんてこの歳なのに寝る寸前まで両親といたりしちゃってさ。  恐怖から来るものだから“ホラーみてたらトラウマになった”と言って流してるんだけど。  頼んだのはA定食の肉。メインと味噌汁とサラダと白米。そこら辺の店より美味いと俺は思っているものだ。あ、ドレッシング忘れた。  重い腰を上げて取りに行こう、と手に机を付けた時、 「ほら、佐倉。シーザードレッシングだったろ?」  すっ、と後ろから差し出されたもの。 「新垣、よくわかったな」 「前から言ってたじゃないか。和風でもゴマでもない、シーザーが一番だ、って」  そんな恥ずかしい事言ったか?  ――だとしたら過去の俺死ね。  安心出来るような笑みを浮かべる新垣に見抜かれたくない俺は顔を合わさず、持ってきてくれたシーザードレッシングを受け取りながら礼を言う。 「さんきゅ」 「ずっと思ってたんだけど、なんでシーザーが一番なんだよ」 「くだらないことをずっと思ってんだな、お前は」  隣に座る新垣はB定食の魚だった。  先にかけてたらしいシーザードレッシングのサラダを見ながら俺も立った席に座り、ドレッシングをかける。 「なんか爽やかだろ。味も酸味が効いて美味いし、ピーマンとかの緑と白と赤と、って」 「よくわかんねぇなぁ」 「わからなくて結構だ」  次に気になるのは、周りの視線。  そりゃそうだ、イケメンである新垣 元和と平凡には負けない凡人である俺、佐倉 航大が一緒にいるんだから。  けど、今だけは許せよ。  

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