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助け呟いた先

   気が付いたのは、目を開けたくても開けれない状態で耳もヘッドフォンらしき物で塞がれながら大音量の音楽が流れている。というか、身動きも出来ずに横たわっているんだと思う。 「っ、な……!」  頭で今の状況を理解しようと覚めていくなか、急な生温かみが下半身から伝わって少し跳ねる。  耳は痛ぇし周りは一面真っ暗、手も後ろでくくられてるみたいで足も大きく広がってるような格好をしているんだと、そこまでは、わかる。  わかるんだが……。 「んあ……ぁっ、おい、おま……っ!」  その大きく広げられた足と足の間に誰かが、いる。恐らくだが俺のモノを口に含んでは舌で丁寧に舐めたりしゃぶったり抜いたりと繰り返し。  された事はなくても、想像でこれは当たりだろう。  そして違和感。 「は、あぁ……っ、」  耳が痛い。音楽ジャンルなんて知らないがこれはクラシックなんだと思うものが流れてて、鼓膜が破れそうだ。シンバルかなにかの音。  大き過ぎて自分の声も出てるのか出てないのかわからないほど。わからないほどだが、下半身から違和感を取れるものは――体内になにか入ってる――ということだ。  気持ち悪い、気持ち悪過ぎて吐きたくなる。  誰だかわからないが、こいつ絶対にチンコ咥えながらケツの穴に指を突っ込んでる! 「もっ、てめ……っ、誰だよ!」  十分に大きな声を出した方だ。だけど流れるクラシック曲が邪魔して相手に届いてるのか不安になる。  届いてるはずなのに、聞こえない分、見えない分、不安が募る一方だ。 「ふっ……ん、んンっ……!」  もう苦しくて頭を動かしたり、肩で口を押えようとしてみても届かなくてツラい。……あれからどうした?  加藤と伊崎と別れた後、俺は自分の家に帰ろうとした、その後だ。微かな記憶を掘り下げてみる。  だけどどう考えてもあの道を振り返ったところからなにも思い出せない。どうしたっけ、どうなったっけ。つーかこの相手……ストーカーでいいのか? 「はぁ、ああっん……んぁ……っ」  ブルッと体が震えた。相手が俺のを咥えながらさらに手で扱いてきて、舌と手の使い分けにおかしな快楽の波がやってくる。  それに、変なはずなのに、指を入れられてるところもじくじくと熱があつまってきて、動かされた指のどこかが掠っては変な声が嫌でも出てくる。  出て、いるよな……?  それすらもわからない。執着にモノを扱きつつもケツの穴まで刺激されて、怖くなる。 「あっあっ、やめろ、って……!ほんと、マジでっ……ふぅ、ん!」  目元がじわっと染み込まれる。おさまらない感情から出てきた涙が塞がれてる布かなにかで吸い取られて伸びたせいだろうか。  救いなのは不思議と痛さがないという事だけで、あとはなにもない。気持ち悪さと、恐怖しかない。 「はあ、はっぁ……」  慣れない感じに腰を引こうとしても出来ず、どんなに動かしても耳を塞いでるヘッドフォンがなかなか外れない。頭を振りたくても限度があるみたいだ。  なにも見えずなにも聞こえないこの場の世界が、怖くてたまらない。  やっぱり新垣の言うことは聞いとけばよかった……。 『そういう時に限って――』  あの言葉は、どんな続きを言おうとしたんだろう……わかっている答えに、また涙が出てきたような気がした。溢れさせたいのに目を塞ぐもののせいで全部吸い取られる。 「あッ……!やだ、んぁっ!んんっ……ぁう、」  入れられてる穴のナカである特定の位置を擦りはじめるストーカー。  あの道で襲ってきた、ストーカーは今、ここに。 「んうぅ……っ、はあ、んぐッ……――にい、がきぃ……!」  助けなど、来ないのに。 「んっんんっ、新垣……にいが、きっ」  前に新垣が言っていたこと。  それは、なにかあったら呼んでくれ、っていう言葉。でもこれは、もう意味なんてないんだろうな。  イくにイケないやり方。そもそもストーカー相手にイきたくはないものの、どこかの快楽に負けてきそうな、そんな思いに俺は死にたくなる。  ナカでバラバラに動く指はもう何本入ってるのかわからない。吐きそうだ吐きそうだと額に冷や汗が垂れてもお構いなしに責めてくるストーカー相手なのに、だ……。  こんなのに感じてどうすんだよ。気持ち悪い相手なんだぞ。誰かもわからず、視覚も聴覚も奪われてて、それでいて身動きも出来ない。帰り道を襲ってきた、最低最悪な相手なんだぞ。  そんな相手に、 「はぁっ、も、うっ……イきそっ……新垣っ、助け……ん!」  感じて、どうすんだって。 「んはっ……あっんっ、なんだ、よッ」  そんな自己嫌悪に陥っていた時、ストーカー相手が急に快楽を与えることをやめた。  咥えられていたモノも、扱いていた手も、ケツの穴に指を入れていたのも、全てやめてくれた。  ちょっとでも相手に縋った俺を殴って消してほしいとは思ったものの、これはこれでチャンスなんじゃないかとも思った。  だって、今なら相手も耳を貸してくれるだろうし。まあ、曲が大音量過ぎて出す声の調整は出来ないが、今だけなら……。 「あっ、おい、誰かは知らないが、まず――っんぁッああ……!」  なんて、そんな希望も儚く散るわけだ。 「いっ、てぇな……くそッ」  指が入っていたところからまた違うモノが挿入された。しかも熱い。痛さで熱いのか、それとも相手のモノがただ熱いだけなのかはわからない。わからないが、わからないなりに、わかるものがある。  強烈すぎる痛みだ。 「んくっ……!」  指とは全然違って救いもなにもない。  本当に誰なんだよ。ここまでする意味がわからねぇ。あぁ、もう、痛すぎて困った。  抵抗の意でまた頭を振っては紛らわせない痛みを感じ取ることになるし、本当に本当にほんと――ムカつく。 「んぁ……んんっ、うご、くな……、」  ムカつき過ぎて痛さもなくなればいいのに。もうどうにも出来ないんだから、とりあえずこの痛さをなんとかしてほしい。  諦めてる俺が思うものは、それだけになった。見えないし、聞こえもしない。口から出る言葉を発しても相手に届くわけもなく、無意味。  じゃあ他にどうするか、って……受け入れてるつもりはないが終わるまで待つしか、ないだろ。 「はっはっ、はぁ……」  痛ぇのなんのって。  こういう時に限って時間もなにもかも遅く感じる。というか、これが終わったあとの俺って、どうなってるんだ。 「んん、んっ……いッ、ってぇ……っ!」  そこまで考えて、右耳から――ブチッ――と聞こえた瞬間、うるさ過ぎたクラシック曲が、聴こえなくなった。 「はあ、あぁ、こうたっ……!痛いか?んんっ、俺の航大、ぁッ――」  変わりに聞こえてきたのは、相手の声。ああ、声だ。 「航大、こうたッ……こーた……!」 「に、がき……?」  届いた声に体がスッと冷たく、なる。  俺が必死で絞り出した言葉。痛さも我慢してまで呟いた、名前。そんでもってこんな状況で諦めた俺の思考はまた復活し、フル回転させて考えついた行き先。  どう聞いても、今の声は――新垣 元和――だ。  その証拠にゆっくりと動いていたナカも止まっている。痛みはあるものの、さっきほどじゃないため俺も俺で息を整える。 「はあッ、新垣……?おまえ、新垣なの?」 「……」  なんらかの原因でクラシック曲が止まっては聴覚を取り戻したが、目は塞がれてるままだ。  ほぼほぼ、わかっているものなのに人間は目で確認出来ないと安心もなにもないみたいで、俺はまた相手に問いたたせる。 「なに、止まってんだよ……新垣、で、いいんだよ……な?おい、なんとか言えよ」  震える声と体は気付かれないように祈ろう。でもこの震えは恐怖心からの震えじゃない。  驚きと、信じられない事実に、怯えの意味で震えてるんだ。  だけど新垣だと思われる相手に、いや、もうこいつは新垣だ。新垣にはバレないような隠し方。 「なぁ、新垣、お前がストーカーだったとか?だとしたら、なんでッ――あ、んッ……!?」 「はあ、あー……佐倉、かわいー……っ」  そう言いながら、新垣はまた動かしてきて、痛さも再びやって来る。  バカだ、こいつはバカだ……!  なんでわかってんのに動かしてんだよ!  その腰を止めろよ!  俺がさっき言った『なに止まってんだよ』は“自分は新垣です”と言ってるようなもんだぞ?って意味で発した言葉だから!?  動き続けてほしかったとか、そんなんじゃないんだぞ? 「いったい、から……!やめろって!」 「ムリ……俺も痛いんだっ」 「はっ!?じゃ、なおさら!」 「でも、それもっ気持ちイイから、んぁ、佐倉……ん、こーた、好き、好きなんだ……!」 「ちょっ、なッ……んンっはあ……あぁぁッ!」  ヘッドフォンはまだ耳にあてられている。目も塞がれた状態だ。それなのに、俺を犯してる相手が見知った人物だと把握出来ただけで、 「しご、き……すんなよっ、バカやろっ……あ、んっ」 「航大、こうた……イった、な……?」 「はあ、はぁ……んっ、ん」  恐怖心がなくなっている。  

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