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ぶれいく

  「いっ、た……!」 「俺のケツの方が何倍も痛ぇよ」  後ろ姿で立つ新垣の横腹にめがけての回し蹴り。打ち所が悪かったらしく蹴られたところを押さえては座り込んでいる。  あー、俺も蹴った足が痛いし、ケツもやっぱり痛い。縛られてた手首も痛ければもう全部が怠い。  本当はこんな部屋にいちゃいけないはずなのに、相手が相手で新垣だからか不思議と“危機感”というものを持てずにいる俺。  わかってる。俺を犯した相手だとはわかっているんだが……どうしてだろうな。やっぱり、新垣 元和だからだろうか。  ストーカーが始まって一ヶ月、恐怖心と立ち向かっては崩れ落ちそうになる気持ちで過ごしていたのに。そんな環境から守ってくれていたのが、新垣なわけで……でもこいつは自作自演で俺と一緒にいたわけだ。  新垣が仕掛けたものを、新垣自身が守りに入って、俺といた。――笑い話だな、これ。 「はぁ……つかなんで俺のケツは指とか入ったんだよ……」 「……寝てる時には、もうローションと、いろいろで、「うわ、もう聞きたくねぇ」  見向きもせず、まだ座り込む新垣。  その背中を見ながらまた溜め息を吐いて、ヤられたケツに刺激を与えないよう立ち上がる。後始末をしたとはいえ感触が残ってて気持ち悪い。  こんな部屋にいて、こんな家にいて――今すぐ風呂に入りたい――と思うのはおかしいだろうか。  普通、ストーカー相手の家で犯されて正体がわかったとしても、風呂に入りたいと思うのは可笑しい事なんだろうか。……わからなくなってきた。  痛みもちゃんとあるから犯されたっていう認識はある。だけど、それでも親友の位置にいた新垣だからか、とりあえず俺はすぐ風呂に入りたいんだ。  シャワーだけてもいいからさ。 「新垣、風呂どこだ。入りたいんだけど」 「風呂……風呂か、風呂、ね……」 「……」  ピクリと反応した新垣の体。喋り方がどうもいつもと違くて新垣と話してる感覚じゃなくなってくる。  もっとこう、男らしかったというか……。 「出て、右に曲がった突き当りにあるから。タオルもなにもかも準備されてる。自由にっ、使っていいよ」 「……お前さ」 「……っ」  ベッドから立ち上がり、ずいっ、と新垣の頭に手を置きながら下に押し込む。なんの体勢もついていなかった新垣の頭が徐々に沈んでいくのを見て、首が痛くなりそうな角度にまで達した。  後ろ姿しか見えてないから、表情とかは知らねぇけど。 「息が荒れてて気持ち悪ぃんだよ」  最後に手で押し込んでいた頭を投げるように離し、俺は部屋から出るためにドアへ向かった。  右に曲がって突き当りにあんだっけ?  あーあ、この家くそでかいな。あの部屋だけが大きいわけじゃなかった。  あいつ、金持ちだったのか。――そうか。 「はあッ……さっき、頭触られた……おれの、勃っちゃった……」  ――そうか。  

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