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禁※過ぎ去った夏の興奮

  「まるで犯罪者気分だな」  二日目にして別の事を思い始める、手錠。  今日の夕飯はハンバーグらしい。  どこで作っているのかは知らないが、ここの家は大き過ぎる。キッチンなんて自室から出てすぐ着く場所じゃないのか、ってツッコミをしたかったが、ここの家はそれが通じない。  新垣が部屋にいない今、俺はすることもなくベッドを背もたれに寄りかかりながら改めて見るハメられた手錠に溜め息を漏らす。最初からずっとサラッと流していたが、冷静に考えればすごい事されてるよな……。  まるでこの部屋が牢屋かと思うほどだ。悪い行いなんて一切やってねぇのに――加藤と伊崎の扱いは別だと判断してくれ。  ジッと見つめる銀色の、少し重みのある手錠。器用にも長細いタオルで素肌と手錠が擦れないように下敷き代わりで縛られてるが、やっぱり意味はそれほどないらしい。  痕が残りそうな赤い色がうっすら浮いてるよ。 「あぁ……腹減った」  暇を持て余す。  ベッドに頭を乗せて高い天井と眩しいシャンデリアである電気を眺めているが、たいして面白くない。当たり前だ。あれはただの天井で無意味なほど輝くシャンデリア。  見慣れないものでもトータル時間で丸一日閉じ込められてたら慣れるものだしな。 「……」  これまた意味なく首を動かせば、俺の部屋に設置されている隠しカメラでみていたモニター六台とパソコン、それでいて綺麗な壁と廊下に繋がるドア、端っこには春と夏と秋と冬でわけられた本の棚が次々目に入る。……あー、怖いもの見たさという感情は、溢れないでほしいよなぁ?  すっ、とダルい体を立たせて足を動かした。中身が予想できている、本棚へ。 「んー……」  料理をしない俺から言わせれば新垣がいつ戻ってくるかなんてわからない。けど言えるのは、この部屋から出てもう三十分……いや、四十分は経ってるってことだ。  まあ、俺がこの部屋を詮索して新垣にバレても怒らないと思うけどな。つーか絶対に怒らないだろう。バレたらバレたで清々しいほど素直になる奴だし。  両手首の自由を塞がれてる手でも使える限りがある。十五センチ……いや、二十センチほどなら両手を離せるしな。  まずは一番初めだろうと思われる春シリーズから手に取る。黒いファイルみたいなもの。漢数字の【一】という文字だが、春だけじゃない。  夏にも、秋にも、冬でも【一】という漢数字が書かれてて、それが順番に気持ちいいほど綺麗に整理されて並べられてる。  これ、別に春から見なくてもなにも違和感などないんだろうな。 「……おー、これはすげぇ」  本棚をじっくり全体を見たところでついに、春シリーズの【一】ファイルを開いた。しょっぱなから俺の写真だ。しかも見る限り、今の高校に入学した時の写真が綺麗に並べて入れてある。  新品な制服に左の胸元には赤い花の飾り。正門の前で撮られている、俺一人と父親母親の交互、それと家族全員が写ったもの。さらに伊崎と二人で、少し照れながら撮られてる写真。  これらは俺の家のアルバムにもある写真だ。角度は違えど、この写真と俺が持ってる写真を持って比べればだいたい同じだろう。――あいつ、いつから俺をストーカーしてたんだ……?  出てきた疑問は後に解決させるとして、これは酷い。ドン引きレベルを越して冷静になれる。 「春で高校の入学式なら冬シーズン【一】はその前の年か、それともこの春シーズン【一】の同年の冬なのか……気になるなあ!この並び!」  そんな大きな独り言に首を傾げながら雑に春シーズン【一】を床に放り投げて冬シーズンへ手を伸ばす。  新垣相手だし、恐怖とかないから今の俺は無敵に近いだろう。  だって近くにストーカーがいて、さらにそいつから遊びっぽい、けど本気の監禁されてるんだ。あとはなにを怖がればいいんだろうか……んー。 「うわ、これ俺の中学時代……っ!」  どう表せばいいかわからない俺の感情はとりあえず頭を抱える。もういっそ笑えてくるぞ!  中学の時に着ていた制服が懐かしい。しかし春シーズンとはぶっ飛んでこれはどう見ても中二の時の写真だ。この年は過去最高に大雪が降って、伊崎とその他の奴等で雪遊びをしていた写真。  中学の時の記憶を掘り下げて思い出す。……写真というより、スマホで撮ったから写メになるはずなんだけど。でもの写真は校内――グラウンド――で撮られてる。  よっぽどのことがない限り他校生の人がうちの中学校には入れなかったはずなんだが……。いや、そもそもこの時から新垣に会っていたら高校の入学式の時に、教室で話しかけられたあの時点で『あ、お前、雪の日の?』って気付くだろ……え?  俺の記憶違い? ないないないない!  誰が撮ったんだ……。 「秋とかもあったりして……」  もう他人事のような立場になってきた。  これは俺じゃない、俺に似た誰かの写真なんじゃないか、って。……でも伊崎もちゃっかり写ってるから、俺なんだろうなあ。  もっと見ていたい冬シーズン【一】も床に放り投げて次は秋シーズン。  どんな年表でまとめられてるのかは知らないが、秋の俺は何歳の俺なんだろう。……ちょっと思い出に浸ってる俺がいて嫌になる。  閉じ込められてる身だぞ。学校に行けてもその他の時間は全部ここで過ごしてるんだぞ。俺の頭大丈夫か、おい。  秋シーズン【一】を躊躇いなく開けば、さっき見た冬と同じ中二からのスタートだった。つーかこれ……記憶にない焼き芋食ってる俺だな。俺だけだ。  金をおっさんに払う俺。笑顔で渡してくるおっさんの手から芋を受け取る俺。帰り道に振り返る俺。食べる瞬間の俺。芋を口にした俺。たぶん、だが――久々に食った芋に少しほっこりしている俺。  そんな連写が並べられててはやく捲れば一つのアニメーションが出来るんじゃないかと思うほど。焼き芋の写真だけで五ページ使ってる連写加減が異常だ。なんなんだ、これは。  思わず座り込んだ俺は秋シーズン【一】を床に置いてペラペラと捲りはじめる。  わかっていたが、それぞれの年の四季でわけられてるファイルは秋も一冊で中二の俺が終わっていた。  なぜか秋だけ連写ばかりだったが、秋シーズンの【二】を手にしてみてもまだ中二の俺だった。  放り投げた春の【一】と冬の【一】を目の前に持ってきてペラペラ捲るが、春は高校の入学式で終わっているし冬はその雪遊びの日で終わってる。  無駄に撮り過ぎてる写真ですでに覚えた“異常”を再確認出来たわけだが、こんなにも俺がいると今までよく気付かなかったな――過去の俺、と言いたくなる。  直接、手紙で関わられるより先になにかの視線とかで察した方がよかったんじゃないか?  呑気過ぎないか、俺。 「お、春の【二】で中三の俺がいるぞ……【一】はどうして高校から始まってんだ?謎過ぎる」  新垣のさらなる謎に好奇心が浮上してる俺が〝異常〟なのか?  いーや、肝が据わってるってことにしておこう。  ばら撒いた数冊のファイルは夏以外のもの。夏だけ違う量に、もう誰しもが予想出来る季節だ。それでいて変態な新垣。  中学の俺は伊崎とバカばっかりやってたような……恥から思い出す一つひとつに、夏シーズンを【一】から【三】をまとめて取り出した。  連写してるんだろうなーって思って。 「……っ」  春、秋、冬。  秋から始まる連写はネタだと思うほど、笑わせてくれた一冊だ。冬も、よくわからないにしろ撮られてて、春は春らしい俺ばかりの写真。というか全部が俺なんだけど。  つーか春らしい俺ってなんだ……まぁそこは気にせず――この数分でなんでも乗り越えてきたと胸張って言える。いいや、胸張って言わせてくれ。  こんな生活になっても新垣を怖がらない俺だ。あいつは度を越した人間。  わかりきったうえで、どんなことをやられようが平気だって思っていたんだ。が、さすが夏……露出度の高い季節は変態新垣も触発されたんだろうか。 「……カピついてるのが、あったなぁ」  すぐさま閉じた夏シーズン【一】の最初のページにある一枚の写真。  今よりも貧相な体をしている俺は学校のプール上がりで、着替えてるところだった。  危なくも腰にタオルを巻いていたわけだが短過ぎたのか、よく見ると先っちょ見えてないか?なんて凝視する写真だ。  その写真だけ、異様なデコボコ具合に表面を見ただけで他と違うのがわかる。  なにかでコーティングされた、感じ。深く考えなくてもすぐにわかってしまう辺り、俺も新垣を知り過ぎたのかもしれないな……あぁ、悪い意味で新垣を知り過ぎたかも、って。  んー、久々に人の精液痕を見たなぁ……。俺ってあいつに犯されてるくせにこういったものにはやっぱ慣れてないから驚くわ。他にもっと驚くところがあるはずなんだけど、それはわかってるんだけどさ……。  もう一度、夏シーズン【一】を開く。そのファイルを開いた瞬間、運が良いのか悪いのか――。 「航大、ご飯出来たけど今すぐ食べっ……あ」 「あ」  新垣が来てしまった。  意外にもエプロンを付けてる事にツッコミを入れたかったが、そういった余裕はない。だって目線が完全に、放り投げて広げっぱなしの散らかり放題なファイルを見ていたから。  そんな俺も同じく口を出してしまったわけだ。別にバレてもいいものなんだけど。 「見たの?」 「あー……」  いつもの声で、爽やかな笑顔で近付いてきた新垣。座っていた俺は立たないままでいれば、すぐ目の前でしゃがまれて首を傾げてくる。  ブルーのエプロン、似合うじゃねぇか……。  どこか威圧感のある態度に開きかけた夏シーズン【一】をちゃんと閉じては返事をして、頷いといた。 「そうか、見ちゃったか……随分前からってのが、バレたな」  拾い上げる夏シーズン【一】ファイル。  ペラペラと楽しそうに捲る姿だけならよかったはずなのに、俺の姿といい、そのファイルの中身といい……いろいろ残念過ぎる。 「この時の航大、俺すげぇ心配してたんだよ。大丈夫だったかな、って家に帰っても不安で眠れなかったんだ……この時は隠しカメラなんて出来てなかったし、良くて盗聴。でもさすがに声だけじゃ判断出来ないものもあるからさ」  そしてある一枚の写真を取り出して、俺に見せてきた新垣。 「どんだけなんだ……」  すぐに思い出した、ある出来事の写真。  浜辺で座る男達と俺。中二の夏休み中旬で伊崎と俺とその他で海に行った時だ。  遊ぶのはいいとしても、どうやらクラゲが増える時期とぶつかったらしく俺と伊崎の二人だけが刺されたっていう。  俺が太もも、伊崎が腕。痛くて痒いし、よりによって俺が太ももだったからか私生活に少しだけ問題もあって厄介だったんだよなぁ。  それを新垣は、知っていたのか。 「航大――よ、っと……」 「おい、なんだよ」  座っていた俺を後ろから抱くように立たされて、手錠された腕を前へ伸ばされる。そのまま新垣は俺の前に来て腕の中に自ら入り、密着する体。  こいつの腕は腰に回ってきて、まるで抱き合う寸前の形にされた。傍から見たら合意の密着だろうが、俺は手錠されてるからな?  そのせいで輪っかみたいになった腕の中に入る新垣相手を退かすなんて、無理な話だろ。  急な格好に焦り、抵抗も出来ず固まっているとギュッと抱き締められる。 「はあ……あの時こたが本当に心配で、薬だって市販用じゃなくて俺が出せばもっと良くなるものをあげれたんだけど……」  頭に鼻と口を付けられて、大きく息を吸っては愛しそうに吐き出す息と漏れる声。わさわさと触られる腰回り。嫌な予感をさせつつ、だけど自由の利かない俺の腕は役立たずだ。 「こうた、もう痛くないかい?痒みも……」 「おいおい……どこ触ってんだよ」  心配のつもりなんだろうか。新垣は俺の部屋着のハーパンからゴム製でベルトなどする必要もなく、だけどそのせいで簡単に手を入れてきては尻に手を添えてきた。  下着に手を入れなかっただけマシだと考えるべきか……いや、俺ってば新垣にたいして甘くないか?  こんなんだからすぐ変な事されるんだろうな……。  呆れて白目になるのをおさえつつ、背中の服を掴んで新垣を離す行動をしてみるが、こんなので動く奴じゃないことぐらいわかっている。  わかっているのにやっているのは、今の俺にはこの手段しか抵抗できないからなんだよ! 「ほら、確かこの辺だっただろ?痕とかついてるかな」  つーっ、と割れ目に沿って指を這わせた後、確かにその辺を刺されたなぁって位置まで触られた。なんで知ってんだ。どうして明確に知ってんだよ! 「いつの話してんだボケくそ離れろ、とっくに治ってるし痕もねぇよ殺すぞ」 「こたに殺されるなら本望でもあるよ」  話を聞け……。  そんな通じない会話も、新垣の手が前の方に来た時、これもうダメだ――なんて何度目かの諦め心が出てきてしまった。滑り込ませるように下着の中へ手を忍ばせては、悔しくも半勃ちしている俺のモノを優しい手つきで撫でて握る新垣。  僅かな触りでも俺からしたら刺激に繋がって息も口の隙間から出て行ってしまう。口を塞ぎたいのに手が使えない。 「んっ……んふ、ぁ……」 「こーた、硬くなってる」 「ま、じでっ、にーがき……!」  こんな立場になってるなら予想なんてついていたはずだ。昨日が奇跡的になかった行為であって、こいつは俺が好きで閉じ込めていたいらしいから。  でも限度がある。  きっと新垣 元和という男は、俺のためならなんだってデキるんだろう。俺が、本気で嫌がればすぐに終わるように。 「航大のココのぬくもりがちゃんと手から伝わってるよ……熱いね?俺のと擦ろ?」  耳元で囁いてくる声は低過ぎず、だけど高過ぎなわけでもない。だけど脳に響き渡るような声を出してきて、いつもこんな声だったか?と考えてしまう。  というか……どうしよう。新垣の手が気持ち良過ぎてツラいんだが……。  器用に俺のモノを手で擦りながらも新垣は自分自身のモノもジーンズから出してたらしく、もともとくっついていた体のせいでチンコ同士が擦り合うのもすぐだった。  慣れない刺激で出てきていた我慢汁のせいか、擦るのも、手で扱かれるのも、全て卑猥な音が耳に届いておかしくなる。出したくない声も出て、ずっと立っていた足はガクガクしていて崩れそうだ……。  あぁ、無理だ、これムリーー! 「はッ、んン……新垣やだっ」 「なんで?気持ちイイだろ?」 「ふっ、くッ……!」  気持ち良過ぎて嫌だ、なんて言ったら絶対に調子に乗るもんなぁ……。  強弱をつけてきた手に上下を擦るスピードも上がってきた。頭では新垣についてわかってるはずなのに体が言う事を聞かないから、見たままでこいつの思い通りになってしまう。ここはもう、イクしかない……!  というかイカせろ! 「んぁ、ん、航大の耳の穴っ」 「ぁッ、はあっ、んン……!にいがき、ばか……あァっんん!」 「んっ……いてっ、」  さらにベロッとねとねとした舌で耳を舐められて、その気持ち良さで限界が突破した俺は虚しくもイってしまった。  立ったままで落ちそうな感覚に襲われた俺はわけのわからないまま背中のシャツを掴んでいた手を新垣の肩にしがみ付き、思いっ切り噛んでやったあと、小さな悲鳴も聞こえた――ような気がする。  

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