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リッチなスイッチ

   その感覚は経験した事あるようで、全くないものだ。  昔、俺の家は猫を飼った事がある。最終的には逃げられて動物を飼うなんてものが禁止にされたわけだけど。  猫好きな俺に意外にもあの親父も溺愛してて、その気持ちが猫にも伝わったのか家族みんなを好いてくれてたんだ。  寝る時もあいつの気分次第なんだろうが俺達、家族からしたら平等な気持ちで毎日変わり番な訪れ。不意に舐められる指や顔は舌がザラついてるせいで若干痛いな、と思う程度。  それでも気にするほどでもないし、むしろそれが気持ち良くてくすぐったかったんだ。  こんな、ねっとりとした舌は、やっぱり経験ねぇわ。 「お前ホントなにしてんの?」 「――っ、んぐ……!」  気付いた時には寝転がってた体を起こし、夢中で俺の足を舐めたり指を口のナカに含んだりしていた足で新垣の頭を踏み付けていた。  目の前のものがなくなった時の新垣の顔がまた面白い。  バカみたいに探そうとしていた俺の足はもうお前の頭の上だ。なんなら踵落としをしてやってもいい。  つーか、せっかく風呂に入ったのにまた入り直さなきゃいけないじゃないか。 「新垣ってとことん変態だったんだな」 「ん、はぁ……こたッあし……」 「好きなんだろー?」  なんて心にない事を口に出す。  誰がどう聞いたって今のは棒読みの他になにも見付からないような言い方だ。そう吐いた俺が言うんだから、間違いない。  さらに力強く踏んだ新垣の頭に躊躇いなど全くなく、俺はねじ踏むまま笑っとく。なにかを覚えたわけじゃない。そういった趣向もあるわけじゃない。俺は普通だ。  平凡な毎日を暮していただけだ。  そこに一人、二度見したくなるほどのイケメンがポンッと現れただけで――ここまで生活が変わると思わなかった。   「ははっ、新垣は俺のなにを想像してこんな事してんだよ。てめぇに優しくした覚えはないしその逆も、恨まれるようなこともした覚えがない。どこで好きになったかは知らねぇが、今後一切こういう行動はやめろ」  言い切った。……今は言い切った感がある。内心、震えっぱなしで慣れない事をしているが、こんなの続くと困るものもあるしな?  なんだかんだやり過ごせば――セックス――だのなんだのと逃れられる気がするんだ。  そこがまた俺の浅はかな考えなんだろうけど。 「はぁッ、こた……イイっ」 「うわー……」 「こーた、」  踏み付けたにもかかわらず新垣は俺の足をまた掴んで、気持ち悪いほどの手つきで撫で回している。俺の踏む力ももちろん変わらず、だけど新垣も負け知らずなのか触り方がおかしい。  足の指を一本一本大事そうに撫でて、でも新垣は自ら頭に重さをかけれるよう押さえ込んでいた。自分で苦しい道に進んでるぞ……。  新垣 元和という男には“気持ち悪い”しか言葉が出ない。というかずっとそう思い、言い続けてる気がする。 「……さすがに、マジで気持ち悪いぞ、新垣」  そんなドン引き声にも新垣からしたらプラスで聞こえてしまったのか、床に擦りつけた頭を動かしているせいで頷いてるように見える。  床といってもふわふわな絨毯が敷いてあるから動物に顔を埋めたほどのものなんだろうけど。  だから痛くも痒くも、苦痛でもないはずだ。けど、屈辱的ではあるだろ? 「こた、こーたッ、俺、好きで……っ、気持ち、伝わってたら、嬉しい、んだけど……っ」 「あーあー、気持ち悪いものなら伝わってるっつーの」  まだ新垣の頭にある足は一回バウンドさせてから退かせた。その時、鈍い音がしたがもしかして奇跡的に頭が床から離れたんだろうか。  それでまた俺が力を入れて、絨毯が敷いてある床と頭がぶつかったんだろうか。  これまた笑える。 「あッぅ……伝わってる?伝わってるなら、はあッ、いい。それでいいよっこーた」  足を退かした瞬間に勢いよく顔を上げる新垣。  いくらふわふわな絨毯でも額は赤く痕が残るらしい。実際にやられた側である新垣はすげぇ痛かったんだろうな……やったの俺だけど。 「航大、こうた、好きだ、好きだよっ。誰にも渡したくないほど、愛してる――はぁ、やばッ……」  ベッドに座る俺に、床に座ってる新垣。よじ登るかのように俺の膝の上に手を置いては顔を近付けて熱い告白。  やばいのは俺であって、お前はすでにヤバい域を超えてるだろうが……。 「こた、ねぇこたッ、俺のそばにいてくれる?いてくれるよな?なぁ?」 「ちょっ、かお真面目に近ぇ……」  さすがストーカー。しつこい。  近付いてきた新垣の顔に予想するのは一つ。――キスされる……。  俺の初めてのキスはきっともう済まされているんだろうな……あの日、俺が目覚めないうちに絶対に使わないと思っていた穴を少しの違和感のみだけ残して突っ込めたんだ。  知らないうちに開発されてて、それでいて奪われた唇はもう記憶を灰にしたいばかり。  せめて覚えていたら――。 「あぁ、航大の()は綺麗だなぁ……舐めたいけど、痛いからなぁ……」 「……ん、」  まぶたを触られて反射的に目をつぶる。  この時にされるんだろうか……話を聞いたりドラマで見た限り、このタイミングだろうよ……最悪だ。 「はぁ、かぶりつたい……」 「ッ、いっだ……!」  自由のない腕に、もともとこの部屋に入ってる時点で抵抗したとしても意味がないと学んでいる俺はしかたなく新垣を受け入れようとそのまま目を瞑っていた。  それなのに新垣は、本来するべきであろう箇所ではなく、普通に俺の鼻を噛んできたのだ。  なにが『かぶりつきたい』だ……もう噛んでるじゃねぇか!  容赦ない歯立てにこっちも容赦なく新垣の腹部を両手で殴る。めり込む勢いで動かした手は、俺が思っていた以上に強かったみたいで咳き込む新垣。  これで終わるだろう、と安堵の息を吐く俺だけど――それでもしつこいんだよ、新垣 元和は。 「んぐっ、はは……ッ、こーたもうサイコーだ……!」  一度は倒れかかった体を持ち越して、新垣は俺の膝の上に置いていた手を這わせて顔を固定してきた。床に座っていたのに今では膝の上に跨られて、身長が俺よりある新垣から見下されては額と額がくっつく。  おかしい……なにかがおかしい。――いや、つーか、最初あたりから気が付いてたんじゃねぇの……おれ。 「もっともっと殴りなよ、俺を、蹴っちゃってよっ……はあっ、あー、こんな航大もかわいいなぁ。完っっ全におれのモノにしたい……」  額もくっつき、体の密着もある。 「……なんで、勃つんだよ」  腹に感じた、服越しでも伝わる熱とカタチ。擦られてる気もするソレは、新垣のモノ。 「さぁ……なんでだろうな?」  耳元を、ちゅっと音を立たせてから倒される体はまるでスローモーション。 「本物の変態か、てめぇは」 「ん……こたの声も好きだ……」  こいつに暴力したら勃起する、なんて――最初あたりから気が付いてたんじゃねぇの、俺。 「航大、こーた……こた、ふんンっ……」 「おっ、まえ!はっ、今!?」  手錠されてる手はチェーン部分を掴まれて呆気なくベッドに括られる。動かせてもカチャカチャとうるさいだけで抵抗の意味がない。このせいで痕が出来にくくしてくれても結局くい込んで濃くなるんじゃないのか。  そういった配慮は見せてくれないのか、新垣。……期待するもんじゃないな。  押し倒された俺はなにも出来ない。動かせても足だ。だけど新垣は俺の足――即ち太もも――に跨って、着ていたシャツを捲っては舐めてくる始末。 「んっ……」  こういう感じ方を覚えてないから戸惑う。流れでヤるとしたら、記憶通りであればあの日以来だ。あとは扱かれたり耳を舐められるといった、あれか……ペッティングといえばいいのか……。もうわからねぇけど、とにかく!  このベッドで、俺の、意識があって、ヤりはじめるのは、初めてだっていうことだ。 「こた、感じやすいのか……んん、意識がないとあまり反応なかったから新鮮だなぁ」 「だったら、あの時、飛ばさなきゃよかっただろっ――ぁ、」  こっちが喋ってるのに有無を言わせない新垣はゴム掛けの短パンに手を伸ばして下着と一緒におろし、雰囲気のまま半勃ちする俺のモノを一気に咥えた。  裏筋をはじめに新垣の舌はうまく使って舐めてきて、亀頭からその先を這わす。思わず引き腰になりつつも新垣からは動けず、漏れる声も塞げない苛立ちを覚えそうになる俺はとにかく他の考えでもしとこうかな……。 「ふっ……んッ」 「はぁ、こーたの我慢汁出てきたよ……おちんちんもおっきくなってる、感じてるんだな……」  そう言ってじゅぶじゅぶと唾液を増やした効果で聞こえてきた卑音に吸い込みが強くなった新垣の口ですぐさまイキそうになる。  なんだこの性技……くっそ、気持ち良過ぎてイヤになる……あぁっ、もう! 「んぅ……にー、がきッ出る……」 「う、ん」  でも我慢なんて出来るはずもなく、俺は退きもしない新垣になにもせず口のナカへぶちまけてしまった。 「はあ、はあ、んンっはあ、おまえ、ほんとバカだ……」 「んぁ、ん、そ?」  力なくも視界だけは新垣を入れて、口に含まれてる俺の精液をさっさと出すかどうか見ていると、案外にもすぐ手のひらに出したからよかった、と一安心。  昨日みたいに飲まれてもそれはそれで困るから……ていうか、こっちが恥ずかしい。俺の精子を飲んでるとか。 「航大、慣らしたつもりだから痛くはないと思うけど、痛かったら言ってくれよな」 「……っ」  そう言ったあと、俺の返事でも待つのかと思いきや、すぐに手のひらに吐き出した精液を潤滑剤として穴に触れてきた新垣。  しばらく馴染ませたあとからくる圧力にグッと力が入る。が、それほど痛くなくて変な感じだ……確か、この穴に入れられた時はすげぇ痛かったはずなんだが……? 「航大、どうだ?」  問われた言葉に俺はふるふると素直に首を振ってしまう。  いや、だって、うん、痛くないし……ん? 「よかった……毎夜毎夜、睡眠剤入れて効いてる時に解した甲斐があった……」 「はっ?……ふひゃ……っ!んだ、今のッ……!」  その指がバラつき、ナカで掠られたある部分。そのせいで思い出したくもない声が出てしまい、急な羞恥に駆られる。  なんだ今のなんだ今のなんだ今の……! 「ああ、可愛い、可愛いよこた。はあ……カッコよく見える時もあれば、こうやって可愛い声も出せるだなんて……。好きだよ、こた。俺の大好きな人だ」 「やっ、つか、いっかいッやめ……んん!」 「前立腺も毎回触ってるんだ。寝てるから感じてくれてるのかわからなかったけど、安心した……あ、なにか聞きたそうなその顔も素敵だよ、こーた」  素敵じゃねぇよ! 前立腺? はぁ!? 「なぁ、もう挿れても構わないよな?指もスムーズだし、これならイケると思うんだ」 「いやいやいや!待て待て……!ちょっ、と……ッ」  片足を新垣の肩に乗せられて、もう片足は手で膝裏を支えられる格好。指が抜かれたところはナニか先っぽが当たる感覚に逃げたくなった。 「今は俺だけ幸せになってごめんな?けど気持ちは無理して作るもんじゃないのは知ってるから……こた、こーたっ、俺のモノになってほしいんだけど、愛し合いたいからっ――「うっせぇな!」  いつまでも俺の穴と新垣の先っぽで擦っては離して、擦っては離しての繰り返し。  また雰囲気で出来上がった体のせいか、ちゃんと勃起を維持している俺のモノもまるで『はやく触ってよ』と訴えかけてるように震えている。  それなのにぺちゃくちゃぺちゃくちゃと長ったらしい話をしやがって……!  俺のためか?  ――ならば早急に監禁をやめるか、この行為をやめるかどっちかにしやがれ。  愛し合いたい?  ――新垣の歪みを受け入れるなら心の準備が必要だろうが。  毎夜毎夜触ってた?  ――表出ろカス。 「こた……」  俺に怒鳴られた事が悲しかったのか、眉を八の字にさせて垂らす新垣。こんな表情を見たら誰しもが胸キュンというものを発してデロデロに抜かれるんだろうよ。……アホか。 「にいがき」 「んっ、」  なんて、思っていた俺がアホだったよ。 「はぁ……はァ、こたイイ、もっと怒鳴ってくれッ」  そう言って新垣は遠慮なく俺のナカに挿れてきた。急に来る圧力に息が止まる。 「ん、ぁ……っ」 「あっ、こた、キツ……けど、愛しいよっ」  ゆっくり腰を打ってくる新垣に俺はただ揺られるがまま。  こいつは怒鳴られたからあんな表情を晒したわけじゃなかった。俺に怒鳴られた事によって、叫ばれた事によって、興奮してさらに大きくさせたモノを一気に挿れてきたんだ……!  どんな勘違いしてたんだよ俺。今までこいつのどこを見てきたんだよ俺!――あ、変態な部分だ。 「はぁ、んっんっ、にーがき、てめぇまじほんとっ」 「どう?ぁ、いたくない?こたのナカ、気持ちよくてッはあはぁ……んくッ、」 「絶対になぐる、終わったら殴る……あッおま、どこ突いて……!」  ……もう、その日はなにも聞かないでほしい。  どういうことなんだ。風呂に入って髪を乾かしてもらって、それでいてマッサージからのコレって、どういうことなんだ……!  本当に学校が明日休みでよかった……ただただ、それだけだ――。 「ん、ふぁッ……こーた、好き、好きだ……!」 「気持ち悪ぃ、ぐらい、繰り返すな……くそっ」    

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