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禁※再会可

  「おい、お前呼ばれてるぞ」  新垣なんて名前、たぶんこいつしかいないだろ。  わかっていても周りを確認してしまう俺はアホだけど、まあ外だしな。仮にも他に“新垣”という名の誰かが反応しているかもしれない。そんな気持ちがありつつ結果はやっぱり誰も反応していなかった。  周りの確認を終えて、新垣の腕をぽんぽんっと叩いとく。 「にーがきー!」  だけど全然、振り向こうとしない新垣に元気なイケメン男はこっちに近付いてきた。もちろん一緒にいる爽やかイケメンと普通の、どこにでもいそうな男もやって来る。 「お?新垣の友達か?ほー?」 「あ……や、」  先に辿り着いたのは元気なイケメン男。 「俺、木下(きのした)っていうの。新垣の、あー、中学の時の友人」  元気なイケメン男は木下さんというらしい。  握手を求められた右手に、俺はぎこちない姿を晒しながらその手に応えて『佐倉です』と口にした。  あとからやって来た爽やかイケメンは『新垣君、久々だね』と話しかけて、そこでやっと振り返った新垣。平凡男はいまだにスマホをいじってて、挨拶という言葉がなかった。  それどころか目も合わない。  んん? 「ていうか、すげぇ……」  木下さんという人も結構整ってる顔立ちだが、この爽やかイケメンすげぇな……。それこそ新垣と顔を比べて交互に見てしまうほどだ。  新垣よりも、上、か?  絵本なんてそんなに読まなかった方だが、でもまるでその絵本から飛び出てきたような綺麗な王子様顔。パッと見で爽やかと判断したが実際、じっくり見ると周りにキラキラと星が散らばってる気がしてならないほどのオーラ。  こんな奴、本当にいるんだなぁ。なにもかもが上手くいってそうな人生だ。 「ん?初めまして、新垣君の友達かい?」  木下さんの次に話しかけられたのが第一印象、王子様だ。  これに頷くのを躊躇いながらもそれしか答えようがない俺はそのまま質問に答えて、同じく自分の名を言う。  この三人は、新垣と中学が一緒だった人達か? 「木下……王司(おうじ)も、久しぶり」 「ほんとなー。あ、でもこの間の電話は助かったー」 「そうか、それはよかった」 「新垣君、元気?」 「俺は変わらず。王司は?」  顔を見合わせれば難なく会話を弾ませる三人。木下さん、王司さん、新垣。  平凡男は会話に参加せず、スマホ。  平凡平凡とは言うが俺も負けずに平凡面だからな。失礼な例えか。でも名前は知らないし、新垣も久々の友人との会話っぽいから俺からは話しかけれない。  というか、いったいこの平凡男と新垣はどんな関係なんだ。 「あ、もしもし?平三(へいぞう)、てめぇどこにいるんだよ」  そんな男と新垣の関係を考えていたらスマホを操作していた瞬間、それを耳に当てて喋りはじめた男。電話がかかってきたのか、この場から少し離れてイラついてるようにも思える後ろ姿を目にする。 「……あの子は?俺、見た事ないけど」  新垣と知り合いかと思っていた平凡男を指で差しながら木下さんと王司さんに聞いていた。それを見て俺は、新垣の知らない人だったのか、と勘違いを解く。  なんとなく聞き耳を立てていると木下さんが『あぁ、外部入学生で高等部からなんだよ』と楽しそうな声で説明。なんだ、外部入学生って。  久々の再会の三人を見てたら俺も平凡男みたいに蚊帳の外気分に浸っていたころで、思い出す事があった。  それは新垣 元和という男の過去だ。 「新垣君が元気そうでよかったよ。順平にも言っておこう」 「いいよ、あいつはもう俺を覚えてないだろうし」 「またまたぁ!男前なイケメン新垣を忘れるわけねぇだろー?」  新垣が通ってた中学は全寮制の進学校だったな。それで、いつの時期かは知らないが、いきなり寮から実家に帰ってしまった騒ぎを起こした、と。  木下さんも王司さんもそこの学校に行ってるんだろうか。行ってるか……なんたって進学校。  それで今も電話している平凡男は高校からその学校に入った人、で合ってるか? 「くっ、はは、やべぇ。俺すげぇ今テンション上がってる」 「木下君?」  抜け出してまで違う高校を選んだ新垣はいったいなにを考えてるのか、だ。 「新垣はたまたま運が悪かっただけだもんな?これ――あの時の、」 「あ、おい、木下……っ」 「……」 「ふっ」  初対面ながら、こう思った。  木下さんって結構、下品に笑うんだなぁ、って。 「……」  ジッと新垣が見つめるものは、木下さんから渡された、お金。しかも万札が二枚。  高校生からすると、大金が手の内におさめられていた。 「……智志君、松村君いた?」 「いたっつーか、迷った挙句、今は駅前にいるらしい。勝手にはぐれて迷子になるってなんだよ……」  その一連を見ていた王司さんはすぐに電話をしている平凡男に近付いて――近過ぎる距離で――話しかけていた。  じゃあ駅前に行こうか、なんて付け足す王司さんは平凡男と二人で先に歩いて行ったのだ。  木下さんを置いて。  いいのか、あれ。 「……なんだ、これ」 「なんだこれって、新垣が最後に渡してきた金だけど?匿いのつもりで俺は貰わず、返そうとしたんだけど――新垣くんってばいなくなるんだもーん」 「……」  新垣はずっとお金を見ている。二万円のお金を見ている新垣、を――木下さんは見ていた。  それどころか、おそらく鞄から取り出したであろうビデオカメラを新垣に向けて映しているから、よくわからない。  だが、そのビデオカメラに【NI-GAKI】とロゴが入っているのを俺は見逃さなかった。 「戻ってくるかと思えば受験しちゃってそのまま卒業。新垣くんのツラそうに見えてツラくなかった生活ともおさらば状態にハマっていたよなぁ。今の“あいつ等”の状況を知ってるか?五十嵐(いがらし)様が追い込んで進級出来ず!すげぇよなぁ?あいつってばどんな力使っちゃったんだろうな?でも、新垣くんの運とタイミングはズレにズレまくってたから、可哀想だと俺は思うよ。ある一人が、中等部からいれば助かってたかもしれないのに」 「……」 「うははっ、新垣ってばその金見過ぎじゃね?佐倉君も固まり過ぎっつーか、」  ――高校ではこいつ、ちゃんと楽しんでんの?  放った言葉は、新垣への言葉なのか、それとも俺に今の新垣を聞いた言葉だったのかわからず、答えられなかった。それだけだ。  なにも反応しない俺と新垣に、崩れる事のない下品さを持つ木下さんは開いていた小型画面をパタッと音を立たせながら折り曲げて鞄へしまった。  会った時よりもテンションが高くなってどう接すればいいかわからなくなったが、最後にまた右手を差し伸べてきた、木下さん。しかも俺にだ。  何度握手を交わせば気が済むんだろうか。 「ま、新垣の友達なら、これからもこの子をよろしく。良い奴だよ」 「はあ……」  言われなくてもわかっている。だってこいつは俺にいろいろしてくるから。……ストーカーでもあったんだけど。 「それと佐倉君、キミはまた絵になるほどの“平凡くん”だな。中沢みたいだ」 「え、だれ」  最後の最後。  木下さんからわけのわからない言葉を吐き捨てられて目の前からいなくなった。  なんなんだ。新垣の中学時代の友達は、いったいなんだったんだ。  

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