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ぶれいく
それから。
とりあえず二万円を出しっぱなしで突っ立ってる新垣の意識を戻して、その金を無理矢理ポケットに入れさせたあと、予定していた買い物をすることになった。
まぁドレッシング目当てな俺はその他になにを買うのか知らないまま一緒に来てるわけなんだが、なにがどうあったのか――新垣の口数は少なく、スーパーに来てもカゴへ入れない。
お前はなにしに来たんだ、と言いたくなるような行動だった。
いや、俺ははっきり言っちゃったけどな。買うなら買うで買わないならはやく帰らせろって。
こいつにとって中学時代を語りたくないならそれはそれでいいが、もしもこれが原因で元気をなくしてるんだとしたら是非とも俺は話を聞きたいね。
木下さんが“あいつ等”とか“匿い”とか、なんか言ってたけど?
新垣にとってツラそうでツラくなかった生活、ってのも気になるだろ。
持っていた一つずつの袋。俺のは菓子など入った軽いものだが新垣が持つ袋は、俺が求めてたドレッシングに飲み物、肉と野菜も入ってるから絶対に重い。
平等に入れようとしていたんだがナチュラルに取られる重い物で結果、こうなったんだ。
だからか家の鍵を取り出そうとする新垣が多少、困難に見えてしまった。
「どこに入ってんだよ、鍵は」
ほとんど話す事がなかった帰路はここでやっとまともに話す。
がさごそと音を鳴らす行動に俺の気を向かそうと、わざと音を立てて動いているんじゃないかと疑ってみたものの、本人は真面目だったみたいで間があいた後、突っ込んでいたポケットから手を出して――この奥――と、一言。
「あぁ、つっかれたー」
新垣の部屋に向かう途中にキッチンがあるらしい。荷物を置いてくる、と言った新垣に袋を渡して、しばらくかかるだろうと判断した俺は先に部屋へ戻ろうと歩き出した。
「あっ……航大」
けど、すぐに呼び止められて、焦った声で『そこにいて、すぐ終わるから』と……どうしたどうした。やっぱり今の新垣はおかしい。あの人達に会ってから、暗くなってるし焦っておかしくなってる。
まあ、もともとおかしい奴だけど。
冷蔵庫に入れる姿を見ながらそう思い、本当にすぐ終わった荷物置き。
ついた部屋に肩を落として疲れからの溜め息を一つこぼした俺は――思い出したかのように、バカなことをやってしまった。
「ん、」
「……航大?」
後ろにいた新垣に、伸ばした両手。
「……」
「……」
訪れた沈黙はなんだか取り返しのつかないものをしたような気がしてならない。というか、これもう取り返しつかなくないか……?
――なんで自ら手錠をハメさせようとしてんだよ……!
「い、や……これは、その……」
「……」
やべぇやべぇやべぇ!
なんてミスだ……いや、ミスか?
これはミスのうちに入ることなのか!?
違うだろ、俺。
嫌なんだろ、俺。
好んでないだろ、俺!
ここから見た奴は俺から縋って頼んでるみたいじゃねぇか……!
落ち着け、ここは落ち着こう。あぁ、とりあえずベッドに入ろう。ちょうど眠かったんだ。寝よう、忘れよう、夢にしよう。
やってきた後悔にゆっくりと伸ばした腕を下ろす。恥ずかしさのあまり、新垣を見ないままベッドに向かっては速攻でもぐり込んだ。
「……こーた」
被ってる掛け布団。こもるように聞こえた新垣の声。
足音が近付いて来てるってことは新垣がこっちに来てることになるな……来るなよ、今の俺は最高にダメなんだから。
失態にもほどがあるだろ。
「こた……今日くっついて寝る……」
「……いやだ」
「抱かせてくれよ」
もちろん答えはNOというノー。
しかし掛け布団を被ったままの俺に触れる新垣の手が震えている事に、気が付いていた。
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