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親友と、ストーカーと、
「うめぇ……」
むしゃむしゃ食べる。風呂上がりのあとのサラダは格別過ぎて涙が出る勢い。その理由は、買ってきたシーザードレッシングのおかげだ。
新垣にとってツラそうで重いような過去話も水のように聞き流して、微妙に復活してた熱もしょうがなく白濁で吐き出した俺からすると――シーザーサラダを食べてる今が、まるで天国のような時間。
耳噛まれて完勃ちする男とかいるのな……手遅れな事態に混乱しながらも落ち着かせていたはずの俺のモノはやはり気のせいだったみたいで、ひょっこりと上に向いてたのが水面上からでもわかっていた。
さすがに恥ずかしかった……あの時ほど入浴剤が欲しいと思ったことはないだろう。むしろ今後もないと思いたい。
「航大、こっちも食えって」
「いやぁ美味くて」
「メインこっちだってば」
ハヤシライスを差し出してくる新垣の表情は少し困ったようなもの。偏食ってわけでもない俺が執着にシーザーサラダを食べていることに驚いてるのかもしれないな。
本物のシーザーサラダが食えてるんだ……そりゃ好物を二日ぶりに食ったら止まらねぇだろうよ。しかも意味のわからないドレッシングをサラダにぶっかけて粗末にしたしさ。
さっきの風呂場の出来事で疲れ切った俺を癒してくれるのはこのシーザーサラダだけだ。美味い。
手錠もあれ以来されてないから一人で自由に、口に入れたい時だけ、食べたいだけ動かせるから感動的なものも覚える。
「おい新垣、サラダおかわり」
「俺の食べていいから。だからこっちもちゃんと、」
「あー、もう、わかったって」
綺麗にシーザーサラダを食した皿を下げながら、まだ手もつけてない新垣のサラダが目の前にやってくる。ドレッシングを片手に傾けてサラダにかけるが、こいつ――こんなに世話焼きだったっけ。
俺の分のサラダを食べ終わったところで満たされる気持ちに、考える。
ストーカーが発覚してから今の今まで、異常な新垣を見てきた。親友だと置いていた新垣もチラついていたが異常新垣の存在の方が大きくて、忘れる親友新垣。
ただまぁ今、目の前にいるこいつは親友新垣なのかもしれないな。久々に真っ白な爽やか新垣で戸惑うというか……考えるものでもないはずなんだが。
「人間変わるよなぁ」
「なにが」
お前も、というか、俺も、というか。
鈍る新垣 元和という人物にひたすら作ってくれたハヤシライスをスプーンですくっては食べる俺。ほとんど食べ終わってる新垣は手に付けたメイン食に落ち着いたのかジッ、と動く右手を見られていた。
高校の入学式の日に話しかけてきたあの時点でこいつは俺を知っていたんだ。じゃなかったら俺に話しかけるわけがない。そのまま伊崎とずっと喋ってて、加藤とも仲良くなって、それから淡々と過ごす日常だったはず。
そこに新垣がいて、挨拶をするかしないかの関係なまま、卒業すると思っていたんだから。いや、つーか、そもそも新垣は進学校を変えずにそのまま高等部へ上がっていたかもな。
変えたキッカケは、俺らしいし。
「新垣」
ずっと俺を見ていた新垣は再び自分のご飯を食べようと進めていた時、話しかけると親友新垣が反応して、んー?と返事をした。人間、一つぐらい欠点があっていいと思うが、新垣は完璧で欠点の多い人間だから残念過ぎる。
「なんで勃起してんの」
「……」
ガラステーブルって、跡が残りやすいから綺麗に保たせるのが大変だって――母親が言ってた。
たまたま見えてしまった膨らみ。ジーンズだし、見間違いか?とも思ったが、違う。あれはしっかり盛り上がってる部分だ。思わず凝視しているせいか俺の視線に合わせて新垣はハヤシライスの皿を目の前に出してきた。
おかげで新垣の下半身が見えなくなる。
「……どうしてそういうこと言うかな」
呆れたような、でも照れも入り混じってるような声に新垣は苦笑い。バチッと合った目は俺が覚えたものに変わっていた。異常新垣、即ちストーカーの新垣 元和。
なにか仕出かすんじゃないか?
「……いや、さっきヤったろ……」
元気の良過ぎる新垣にドン引きして目を逸らす。だけどこいつはバカなのかもしれない。
「こた、かわい」
俺の目逸らしは“照れて直視出来ないから”と判断したみたいだ。せっかく整った良い顔も台無しなほどとろけた笑みで、気持ちが冷める。
立ち上がった新垣はすぐ俺の後ろに回って抱き締めてきた。乾かしてもらった髪の毛に鼻をつけては聞こえるほどの深呼吸で嫌でも体がビクつく。
気にせず飯を食い続けるか……でも、なんか腹がいっぱいになってきたなぁ。こんなドン引くような事をされたら腹も気持ちもいっぱいになるか。
ついでに頭の中も。
「なにしてんだよ、すとーかー」
「ふはっ、こた棒読みだ。もう怖くないだろ?」
なにが嬉しいのか知らないが新垣は笑みをこぼしながら自分の頬と俺の頬をくっつけて、擦りつけてきた。
何度もやられてる事だ。俺自身、そんなに疑問など思わなかったセックスだって、風呂場でヤったばかりだから恐怖もなにもあるわけがない。
相手は新垣。親友としての新垣が抜けずに嫌わなかったのが、お互い唯一の救いだったろうに。
「なぁ?こた、まだ食う?」
真横にある顔が近過ぎる。だけど気にせず、残った飯に心の中で謝りながら首を横に振れば新垣は『そうか』と言って、話を終わらせた。――が、離れない新垣。
「近ぇよ。それと当ててくんな」
「……」
容赦なく新垣の顔を手で押し退けて距離を取ってみるものの、全然変わらない近さでイラついてしまった俺はどうやら短気らしい。
新垣のおかげで気が付いた俺の性格の一部分。これには感謝だな。
「じゃあいーよ」
パッと、素直に離れた新垣。
どうやらこの後の展開を期待していたみたいだ。バカじゃねぇの。
はあ、と安堵の溜め息に空になってる皿を重ねながら他のもテーブルの端に寄せる。
あそこまですぐ離れる新垣も珍しいな、と知って気取ったような考えをする俺だが、こんなのなんの役にも立たないものだ。
気にせずもう寝ようか?
風呂にも入ったし、飯も食った。時間的にはかなりはやい方だがデジタル時計で表示されている数字は【18:36】だ。たくさん睡眠を取れたからといって良し悪しを考えるなら、少なくとも悪くないものだろう。
寝過ぎて眠くなる現象には逆らえないけど。でも明日は学校だ。二日ぶりの加藤と伊崎に会えるから楽しみなんだよ。長く感じたこの二日間。加藤と伊崎を恋しく思うのはどうなんだろうな?
気持ち悪いというべきか。……新垣に感化されたか。でも、俺はあの二人に“体”を許すかといったら断固拒否するなー。
しつこ過ぎる新垣だから――あれ、こんな考えいいんだっけ。
若干、引っ掛かりを感じながら俺が使っていたフォークにスプーン。それを掴んで皿の上に乗せようとした。
「あ、航大、そのスプーン貸してくれ」
「え」
気付いた時には掴んでいたスプーンの手はフォークしかなくて、新垣の手に渡っていた。
だが、やっぱり新垣だから。おかしいから。
「……にーがき、お前ホントなにしてんの?」
「ん、んんぅ、黙ってたけど、いつも、こうやってた、の」
区切られる言葉。漏らす息はエロく聞こえる。
ジーンズのベルトは、すでに外されていた。
「……」
またもやドン引きをする俺。
スプーンのへこんだ部分を露わになったモノへ近付けさせて、亀頭に擦りつける新垣。俺が使っていたスプーンで、べっとりと舐めていたスプーンで、ハヤシライスのルーが少し付いてるスプーンで、躊躇いなく擦りつけている新垣はとても気持ち良さそうだ。
「んッ……こたが、使用したものをまた使えば、舐めてくれたのと同じかなっ、て……」
へらっ、と笑みを見せる新垣。首から下を隠せば女はもちろん男も惚れるんじゃないかと思うものだ。だがしかし、全体図を見てしまったら、どうだ?
新垣をかなり好きだと想っていないと受け止めきれないんじゃないか?
俺?――俺か……。
「……すげえ想像力豊かだなァ、新垣くんは」
「んふっ、そ?だてにストーカーをしてないからさ」
俺に笑いかけた後、新垣の手は上下に扱き、使っていたスプーンを裏筋にも擦りつけて、出す声が徐々に大きくなっていった。背をもたれる場がないくせに気持ちがイイのか前屈みになりつつ、俺と近付く距離。
とはいっても頭だけで他は変わりないからさっきみたいにイラつきはしないんだけど。
「はッはっぁ、ん」
「……」
垂れる前髪で新垣の表情が見れない。長くも短くもない髪はただたん頭を下げてるせいで見れないだけだ。
苦しそうに、だけど気持ち良さそうな声は、もう少しで果てそうなものだと察する。
「おい、」
「あっん、こた……っ、いつか、舐めて、」
くだらないし、なさけないし、興味はあまりない――はずだけど、――そのスプーン一本でイケちゃうのってさ、
「新垣、お前は、変態か?」
「んぁぁッんン――!」
掴んだ前髪を引っ張り、顔を上げさせればその直後にイクという事件。さすがに俺の方まで液は飛ばなかったが、どこの場面で、どの瞬間でイッたのかがわかってしまい俺も笑みを浮かべてしまった。
「ハッ、すげ、」
「はあはあ、こたぁ……こた、こた……」
床に金属音を鳴らして落とすスプーン。ベタつく手で俺に触ろうとしてきた新垣をはらい、立ち上がる俺を見ては寂しそうな表情をして涙をたまらせている。
「俺もう寝るわ。明日でやっと終わるから清々しい気持ちだし。なんつーか、世話になったな、変態やろー」
欠伸交じりの言葉。もちろん心から思ってない言葉。親友の新垣と、ストーカーの新垣と、恋する新垣と、変態の新垣。
どの新垣も最高にヤバいやつだが俺はどうも、そんな新垣 元和を――にはなれないらしい。
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