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押して、引いて、おされて、ぶれいく
とりあえず一回抜いてもらって、それから考えようと気持ち良さに流されていた俺だが、さすがに人が来たら洒落にならない。
この状況をどう受け止めるかはこっちに向かってるやつ次第だが……まずどんな人が来てるのかがわからないから落ち着かない。
普通の生徒かもしれないし、教師かもしれない。保健医が通るだけかもしれないし、美術の担当教師かもしれない。
最後が一番厄介で危ないものだろ……。
ほぼ持っていかれていた意識を掴み取り、新垣に話しかける。
「んッ、おい、にーがき、」
「イキそ?いいよ、イッても」
扱きをやめない新垣は嬉しそうな表情で、さらに出した液を飲むつもりなのか亀頭からパクりと咥えて尿道まで責めてきた。
「そうじゃ、なくて……誰か、来たから……!」
「……っ、ん、逃げられないからってそんな嘘、かわいいなぁ」
ウソじゃねぇよ……!
なんでここで俺が嘘吐く必要があるんだ……あぁ、俺の思考を読み取っての裏の裏だと思ってるのか?
だとしたら本物のバカだろ!
こいつは本当にバカでアホでカスでボケでダメでクズで、
「くっそ、ほんと、だっつのッ!」
離れてくれなければ丸出しの俺のモノを隠そうともしない新垣の背中に、踵を使っての蹴りを出す。
「ん゙っん――!」
咥えながらの衝撃でも新垣は俺のモノに歯を立てず、口周りがきゅっと窄まった程度。新垣の痛覚が快楽に変わっているから俺の加減もわからなくなってくる。
離してくれないってことは痛くねぇのか?――そんな考えになるから。
確実に近付いてきてる足音はまるでスローモーション。耳を塞ぎたくなるほど大きく、音を立てて聞こえる。冷や汗も垂れてきそうだ。
「本当に、来るんだって!いつまで、ンッ、しゃぶってんだよ!」
「んあ゙っ――!」
ごりっ、ともう片方の足で新垣の股間を踏み付ける。さすがの新垣もこれは限界だったみたいで咥えていた俺のモノを口から出してくれた。
だからといって俺の勃起モノがおさまるわけじゃない。
「こーたぁ、なぁ?航大、」
「……あ?」
さっきまでのイラつきが復活したかのようにドクドクと心拍数が上がりつつ、聴覚の意識はとれない。
「――やっぱ、見られた方が俺達の関係も理解して寄って来なくなるかもよ」
「またお前は……考えもしないで言うな……」
呆れて白目向きそうだ。ていうかお前も足音に気付いてたんじゃねぇか。くそ。
どこかトロつかせて幸せそうに言う新垣はまた俺の膝上に跨ってきて、自分のモノを取り出し、俺のモノとくっつけさせてくる。
いつから新垣のモノも勃たせていたのかわからないが、もう完全に勃起している先からは透明な汁も出てきてて、亀頭をテラつかせていた。
「あっほんと、ばかッ」
「こたの、あっつい……俺のとどっちが熱い?」
足音が聞こえてるくせに変態新垣は調子に乗りに乗り続けて、額までくっつけて擦りつけてきた。こつん、とぶつかるデコとは違ってぬるぬるする下は亀頭擦り。人生で二回目の経験だ。
新垣の方が熱く感じるようで、実は俺が熱いんじゃないか?と思うほどわからなくなる。
それがまたイイんだが、問題はそこじゃないんだって……俺が聞こえる足音は続く。
どんだけ遠くからこっちに向かって来てるんだってぐらい長い長い廊下でも足音が聞こえてるんだ。もしかしたら、新垣が俺の発言を嘘だと思い込むのもしかたがないのかもしれない。
こいつが足音に気付いてた発言も実は、俺に合わせた適当な言葉だったのか?
なかなか来ない、もしくはこの美術準備室の前を通る気配がないと思ってるんだろう。
違うから。ちゃんと俺の耳には聞こえてるから。だからこそ焦っている。気持ち良さに負けてまた醜態を晒すような展開は、もうこりごりなんだよ。
しかも新垣 元和を殴った以上に新垣 元和とこんな行為をしてることがバレるっていうのが、嫌なんだってば!
理由? ねぇよ!
ただイヤっていう理由だけじゃダメなのかよ。
「にーがきッ、いい加減に――ふっん、」
「はあッぁ、こーたっ」
動きで擦れるデコとデコに、新垣も汗を浮かせていたらしくその汗がこっちに伝ってやってくる。
二本のモノを新垣自身の手と頬を噛まれたような舐め方に、その感触が忘れられないモノになりそうで少し恐怖を感じた――ってそこじゃねぇよ。
野郎にモノを触られたからってどうとかこうとか関係ねぇよ!
今さらすぎる、もうダメだ。俺も俺で必死過ぎておかしくなってる。いや、おかしくなっているのは自覚していたが、これは正気のおかしさだ。正しい可笑しさ?
わからねぇからいいや、これは、おかしい。
それだけだ。
「はあはあ、んッ……くっ、」
「にーがき、」
『――』
この足音って実在するものだよな?
ここにきてまさかのホラーとかあり得ねぇぞ……?
なんで新垣には聞こえねぇんだよ。
〝――っ、〟
……あ。
「てっめぇ――、一旦やめろっ!」
「ひぅッ……!?」
キーンッ、と後頭部まで伝わる痛さは一瞬、目の前をチカチカさせる。
足音が消えたと同時の頭突きを新垣にくらわせといた。そして腑に落ちないことだがバレたくない俺は必死だから。必死でこれ以上、晒さないように俺は新垣に『――なにもせず抱き締めろ』と口にする。
急な事に驚きを隠せないでいるらしい新垣は固まっていた。
俺からこんな事、言うなんて初めてだし、その気持ちもわからないくもないけどな。
でもさっさとしろよ。たぶん、というか絶対に足音の正体がそこにいるはずだから。長かったな……長過ぎて俺のハラハラ感で寿命が縮んだようにも思えるわ。
なんて考えは後にまだ固まる新垣の胸へ、しかたなく、しょうがなく寄った俺は顔を埋める。
反射的なのか新垣はびっくりしつつも自分達のモノを触りに触りまくっていた手で、腕で俺の背中に回してギュッと力を込められた。
それと運良くのタイミングで美術準備室の出入り口である引き戸が音を鳴らして開く。――こうなるんじゃないかと思ったんだ。
「あ、」
聞こえてきたのは少し掠れ交じりなハイトーン声。
新垣に抱き締められてる俺は相手の顔が見えないが、相手も俺の顔なんて見えてない。新垣のおかげで……いや、俺の提案のおかげで隠れている俺はどう見たって佐倉 航大が新垣 元和に抱き締められてるなんてわからない。
つーか俺の存在もわかってない奴が多いから、例え顔を見られても名前まで一致しなそうだけどな。……それでもバレたくはないから、いいんだ。
「あ、の……」
動揺していそうな声。
これ、横から見たら俺達のモノって出てるんだろうか。それとも抱き締めてる格好だから見えてないのか?
あと、俺の後ろでハメられてる手錠も相手からしたら、どうなんだろう。
「ごめん、取り込み中なんだ」
考えていれば新垣はやっとわかった俺の行動にすぐ“親友新垣”で相手に話しかけた。
取り込み中の言葉と雰囲気で察したらしい相手はガタガタと引き戸かなにかをバタつかせながら『しっ、失礼しましたッ!』なんて言って出て行ってくれた様子。
おまけにちゃんと閉めていってくれたっぽいぞ。律儀な相手で本当に感謝だ。……もしくは新垣の目元の傷を見て怖くなったかな。
「こた、こた……」
「……」
再び誰もいなくなった美術準備室。何度同じ勘違いをしたら気が済むのかわからない新垣だが、やっと求めてきてくれた、とでも言いたいんだろうか。
だとしたら、滑稽にしかうつらないが……大丈夫かよ。イケメンも台無しだぞ?
あぁ、変態の時点で台無しか。
「新垣、コレしまえ。もしくは手錠外せ」
「こーた……」
さっきの喋り方とは打って変っての甘い声を出してくる新垣に鳥肌が立つ。今日だけでもう三、四回は立ってるがどれだけ寒気を感じさせてくれるんだ。
ある意味すごいぞ。
とか――俺も流されて勃起しちゃったモノは現実だからあまり新垣の事を言えなかったりするんだけど。
だけど、だいたいおさまったモノはさっきの相手のおかげだろう。ちょっとどころか結構萎えてて笑える。
「家、帰ったらヤろ」
「嫌だけど」
そんな俺の返事は聞かずに下半身のモノを惜しそうにしまっていく新垣。手錠はまだ外してくれないらしい。
どうもこいつの気持ちに応えられないからなぁ――。
「航大、好き、愛してるよ」
「どんだけ言うんだよ、それ」
ちゃんと拭いてくれたモノはすっきりしている。新垣は相変わらず俺の膝上から動こうとはしないし、体もいつも以上に密着していてあまり身動きがとれない。
顔が近過ぎる新垣との距離は、まあ七生と比べれば嫌な感じはしないが……。
「いっぱい言い過ぎると愛が軽いとか思うか?でも止まらないんだよ、航大への想いが」
「すげぇ気持ち悪い事言ってくるな。そういうの、やめろよ」
「ちょっと無理」
辛辣のつもりで答えた言葉も新垣からしたら俺が返事してくれたことについて嬉しさが増してるみたいで、なにもかもが無駄だとわかった。
だからだいたい意味ないんだ、俺が吐く言葉ってのは。
暴言だろうがそうじゃなかろうが、新垣の耳は都合のいいものしか入らない特殊過ぎる耳。……バカバカしいな。
「おい新垣、腹減った」
途端に諦めモードに入った俺は今までの流れとは無関係過ぎる会話をする。
それに小さく笑いつつも、スマホを取り出して『ずっとトランプしてたもんな』と言った。
あー……。ババ抜きジジ抜きのやり過ぎで購買ではおにぎりやパンなどを買ったんだが、加藤が熱中し過ぎて食べる暇もなかったんだよな。
それでいて七生が絡んできて、新垣の事件だろ?
いや、俺の事件というべきか。どっちにしても後戻りできない展開になったのは、確かだ。
「……こた、」
首回りに腕を通してきてコメカミに、ちゅっと音を立ててはキスをしてきた新垣。
切り替わりが激しいんだよ。親友だったり、変態だったり。恋してたり。たまにストーカーが入ってくればすぐ親友に戻ったりでイラつく。イラつきばっかりで、怒鳴りまではいかないけどさ。
ちなみにさっきの頭突きは怒鳴りに入るかな。
そんな考えをしながら俺は新垣の目を見ず、飾られてる変な絵に目を向ける。
「ん?」
無意識に返事をした俺の声は加藤や伊崎達と話す時のような、穏やかな声だったと思う。それに関係するかは別として新垣は両手で俺の顔を包むように固定してきた。
「……俺の?」
眉を垂らして八の字にさせる不安そうな、顔。目尻の怪我はようやくおさまっているらしい。
でも、驚きの連続だと思わないか?
〝航大は俺のもの〟というのでさっき暴れたばかりのテーマだったのに、新垣 元和はそれをまたぶり返してきやがった。
みんなの前で殴られて蹴られて踏まれたブラックゾーンなのに、また足を踏み入れてくるとか。
マゾ気質があるんだなぁ、と改めて思ったよ。
「こーた……」
病気みたいにさっきから俺の名前呼びやがって。
「こーた、おれ確かに酷いことや気持ち悪い事もしてきたけど好きな気持ちは純粋なもので本物だ……航大の嫌がる事はもうやめろ、だなんて“伊崎”に言われたけど、好きな気持ちをおさえる事を知らない俺からしたらなにもやめられないんだ。七生の件についてはただの嫉妬で、挑発するように伊崎が俺を見ていたんだ。加藤だって知ってて航大と遊んでいるのかも、って思ったら、公言したくて見せびらかしたくて――佐倉 航大は俺のものだから、そっとしといて――って、声を大にして言いたかった。それが爆発して、あーなったんだよ……」
またえらく長いものを吐き出した新垣は最後『だから嫌いにならないでくれ』と。
新垣の想いが熱過ぎる。新垣の愛が重過ぎる。新垣の行動が大胆過ぎる。
よくも俺は今でもこんな人間のそばにいたよなぁ。俺だって親友の新垣となら、って――。
「航大、お願いだから黙らないでくれよ。こんな俺だって心配になるし好きな奴に嫌われるのも、振られるのも嫌なんだ……伝え方はぶっ飛び過ぎた。自覚もあるし非常識な事だともわかってる。むしろ犯罪領域なのもありながら、「――ぷっ!……ふっ、」
新垣の頬に、俺が吐き出した唾がかかった。
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