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第2話

◇◇ 「…湊君ってさ、いつもつまらなそうだよね」 頬杖をついて、名前も知らない女の子が軽く笑いながら、そう言った。 その言葉が耳に引っかかり、思わず手を止める。 「表情とか仕草とか見てると、時々そう思うんだよね」 「…そんな風に見える?」 「うん。なんか、心ここに在らずって感じ」 女の子はくるりと巻いた毛先を人差し指で弄りながら、じい、っとこちらを見つめる。 つけまつげで縁取られた、大きな黒い瞳。 見透かすような視線が居心地悪くて、無理矢理顔に笑みを貼り付けた。 「…ごめんね。じゃあ、俺と話しててもつまらないでしょ」 「そんなことないよ。湊君、ワタシの話聞いてくれるし」 適当に相槌打って話聞いててくれれば、大抵の女はそれで満足するの。女の子はそう続けて、微笑んだ。 「だからね、結構好きだよ。湊君のこと」 好きという言葉が、耳をすり抜けていく。 もう何度と聞いた、無味乾燥で何の味もない言葉だった。 「…ありがとう」 顔に笑みを貼り付けたまま、そう返す。 女の子は大きな目をすっと細めると、髪を弄りながら、唇を半弧に歪めた。 「……でも、湊君のその笑顔はキライかな」 ◇◇ 「…なぁ、湊」 「…ん?」 「俺達って、…どんな関係だと思う」 突然の佐武からの質問に、手を止める。 細かいところを気にしない大雑把な性格だと思っていた佐武が、こんな風な質問をしてくるのは、初めてだったのだ。 「…関係……そうだな」 戸惑いつつも、友達以上恋人未満じゃない、と返す。 その答えに、佐武は頷いて、なるほどと俯いて考え込み始める。 「…なんで、そんなこと聞くの」 いつもの、会話の合間に発生する変な間はむしろ好きなのに、今のこの間には、嫌悪感を覚えた。 関係なんて考えたこともなかったし、第一どうでもいいことだろう。 苛々を押し殺して、佐武の服のボタンを外してゆく。 「…そんなことよりさ、…しようよ」 服を脱がせ、露わになった佐武の肌に、舌を這わせる。 先端で胸の突起をちろちろと舐めてやれば、佐武の身体がぴくんと震えた。 「っ、湊…」 「…ほら、こっち、…集中しろよ」 「ん、ッ…」 尚も思案するような仕草を見せる佐武の乳首に、爪を立てた。 強めに引っ掻いてやれば、佐武の顔がぐっと歪む。 その唇から小さく漏れた声が兄と重なって、ぞくぞくと背筋を快感が駆け上がる。 「俺は、佐武のこと好きだよ。…それじゃ、駄目なの?」 「……分かったよ」 観念したように目を閉じた佐武の唇に、キスをする。 「…いい子」 寂しい時に会って、互いの求め合うままに、セックスする。 この関係を世間はセフレなどと言うのだろうが、佐武にはそういう言葉は当てはめたくなかった。 それに、この関係に名前など欲しくない。 『…湊』 今のままでいい。 何も考えずに、美しい夢に溺れていたい。 耳から流れ込む低音に陶酔しながら、口内にゆっくりと侵入してくる舌に、自身のを絡めた。

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