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第2話 カーテンとカップ
佐野の所属している総務部はグレーに近いホワイト部署で、月末月初、月中の締め日を除けば、ほぼ定時上がりが可能である。
今日も30分のみの残業で、外はまだ明るい。駅やバス停には学生もあふれかえっている時間帯だ。
昨夜泊まっていった武林からは、今日は取引先の接待があるため、寄れないと事前に聞いていた。
大きな買い物をした後なので、節約した方がいいのだろうが、今夜はお手軽に外食することにした。
駅前の大型ショッピングモールにたどり着き、フロアマップを眺め店を物色する。その時、インテリア用品の売り場が目に入り、ついでに新居のカーテンを買おうとそちらへ向かった。
先日、メモに残していた窓の寸法と実際の商品を照らし合わせながら、柄や性能を見ていく。
遮光、遮像、防カビ、防菌……ここしばらく、見ない間に種類があまりにも増えていて逐一驚く。
サイズと値段と相談し、レースカーテンを選び、次はカーテンだ。
「あ、この柄いいなぁ」
無地、ストライプ、ドット、幾何学模様……部屋の写真と照らし合わせながら、佐野は懸命に考えたが、どうにもしっくりこなかった。
食事をしてから、あらためて選ぼうかと諦めた時、突き当たりに設置されているワゴン目に入った。どうやらアウトレット対象の品が入っているらしい。
のぞき込むと、紺地に銀糸の十字模様が入っているカーテンが目に飛び込んできた。それは照明を浴びて控えめにだが、キラキラと輝いた。
落ち着いた色合いにキラリと光る十字は星空のようだ。
――これしかない。
そう感じた瞬間、他の色や柄がとたんに色あせてしまった。
このカーテンのある部屋で、今まで通りに2人がくつろぐ姿が頭に浮かんだ。そして買い物かごに必要数をポンポンと放り込んだ。
ハッと気づき、慌ててサイズを確認したところ問題はなかった。
自分の好みとは少しずれていたが、それも問題ではないことに、佐野に笑みが浮かんでいた。
カーテンレールも共に購入し、週末に新居への配送の手続きをカウンターで済ませた。フードコートでうどんを注文し、空腹を満たす。
腹ごなしにテナントを冷やかそうとブラブラしていると、雑貨店に並んでいる食器が目に入ってきた。
赤さび色の地色がちらりとのぞくクリーム色の素朴な風合いの丸みを帯びたマグカップと、瑠璃色がとろりと光る六角の大きめの湯のみ。
店員に声をかけて、手に取らせてもらった。
「一つ一つが作家さんの手作りなんです! 同じ柄でも表情や持った感じが違うので、どんどん触ってみてくださいね!」
その言葉に佐野は甘えて一つ一つ手に取り、角度を変えて眺め、感触を確かめる。確かに薬ののり方一つで表情が全く違っていたり、同じ形かと思いきや微妙に収まり具合が違う。
いくつか手にしたところで、手のひらに吸い付くようなそれを佐野は気に入った。
マグカップと湯のみのどちらも、気に入ったものを見つけ、満足気に会計を済ませた。
佐野の新居は今まで利用していた最寄り駅と同じエリアだ。方向は真逆だが、どちらも駅から徒歩10分程度の距離になる。ショッピングモールからの帰りに立ち寄り、先ほど購入したものを洗い、備え付けの食器棚に仕舞う。
2人はお互いに持っているもの、好きなものを大体把握している。今までなかった武林好みの瑠璃色の湯のみを出すと、どんな反応が返ってくるだろうか……。
それを想像するだけで佐野は、酒に酔ったかのようにクスクスと笑いが止まらない。
今までの思い出を作ってきた部屋は無くなってしまうけれど、この新しい家でも同じように馬鹿騒ぎができればいいなと、新たな生活に胸を弾ませた。
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