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第24話 雨上がりの空から、虹色のしずく④
呼吸の合間に唇を少しひらくと、優の舌が差し込まれて、より深いキスに沈んでいく。
ぬるりとからめ合って、もつれ合って、時間も忘れていく。
優の舌が上顎を擦っていくと、そこからじんわりした温かさが広がっていった。
唇で、舌で、繋がって、やわらかい部分を晒け出して。
この体は誰でもない、俺のもの。
優がキスしたところが、優が触れたところが、自分の体があるんだって気付く。
こんなところに自分の唇が、自分の肌が、自分の指が、自分の首筋があるんだって気付かされる。
「ん……っ」
呼吸が上がっていって、心は愛しさでいっぱいになって、優の温かな肩にしがみついた。
優は体を、俺の体に擦り寄せるようにして、ぎゅっと押し付けてきた。
ふっと、自分の腰に、触れたことのない感触が当たっていた。
それが、優の反応なんだと分かって、俺は戸惑った。
男同士なんだし、同じもので当たり前なんだけど、俺といて反応していることに、今さらながら驚きと――
自分にそう反応していくれることに、胸の奥に、ちいさく喜びがふわっと灯るのを、不思議な気持ちで感じていた。
それは、優だから。
「優――」
唇を離すと、優はすぐ横に寝そべるようにして、それから俺の指先をもてあそぶようにいじっていた。
伏せられた瞳はいつもより茶色く濡れているようで、速い呼吸を繰り返して上下する胸や、苦しげに寄せられた眉が、セクシーだった。
優はぎゅっと目をつぶって、俺の掌を自分の頬に強く押し当てた。
当たっている腰は震えているようで、俺は何度か瞬きした。
優は苦しいんだ――
ただ俺が進むのを待っている優を、たぶん解放してあげられるのは、いま俺だけで――
その想いは心で膨らんで、ふうっと息吹き込むと、大きく弾けた。
俺はおずおずと指先を伸ばしてみた。
強張る指はぎこちなくて、なるべくそれを優に気が付かれないように、息を飲んだ。
「優」
キスしたい、今――
そう思ったことに自分で驚いて、気持ちはフワフワと落ち着かない。
たぶん初めて、はっきりと自分から、ゆっくりと唇をよせてくちづけた。
それから、ためらいがちに優の下肢の昂りに、指を這わせてみた。
そこは下着の上からでもくっきりした形をしていて、確かめるように指でなぞっていくと、押し返すような確かな感触が手の中にあった。
「葉……司……」
優は驚いたように、パッと目を見開いた。
下着をずらすと、弾けるように出てきた、優の中心部をまじまじと見つめた。
肌色で、優の頬のようになめらかで、それを優の髪と同じ茶色がかったくせっ毛が囲んでいる。
それは、確かに優とつながっていて、優が小さくなったようで、どこか可愛いと思ったことに、心はフワフワと揺れている。
「あの……葉司?」
驚いておずおずと訊く優が、愛しくて、その想いが胸に充ちてハレーションしていく。
「優――」
「えっ」
ゆっくり掌で握ると、その昂りは熱くて、びくんと跳ねた。
俺がそっと掌を上下すると、優は呼吸を速めて、ぎゅっと目をつぶった。
先端から粘液が溢れ出てきて、優の体が、俺といて俺の手で気持ちよくなっているんだと知ると、どこか誇らしいような、もっとしてあげたい気持ちになった。
「葉司……大丈夫……?」
唇を噛むようにしてそう言う優が、快楽の中に息を弾ませている。
「ん……」
そっと顔を上げると、前髪と前髪が触れて、目の前にはくっきりとした唇がうすく開いていた。
ちゅっとキスをして、掌で刺激を繰り返すと、優はぎゅっと眉を寄せて、真剣な目をして俺だけを見ている。
この手いっぱいにある昂りの熱さ、それは、優の生命の温もりで。
優の心とつながっているようで、手にした感触は、清らかにさえ思えた。
清潔で快活な、優そのもののようで、優が感じていることに胸は高鳴っていく。
「大丈夫……みたい」
そう告げて、片手で粘液で濡れた先端を弄りながら、もう片手で上下に擦っていった。
「あ――やばい、葉司……ッ」
むさぼるようにキスされて、息継ぎできないままに、俺は優の昂りを握り込んで、さっきより強く掌を蠢かした。
少しずつ昂りはより膨らんでいるようで、優の脚の付け根がびくびくと痙攣した。
あ、もうすぐかも――
そう思うと、優が俺の肩をつかんだ。
「葉司――出、ちゃう……よッ」
はぁはぁと息乱して、俺を止めようとする優が、もう高みに昇っているのが分かって、俺の頬は熱くなった。
「いい……よ。大丈夫……出して――」
「んッ!」
優は少し身を強張らせると、俺の手の中で、どくんどくんと果てた。
掌に、優が飛び散らせた白い精液が溜まっていって、俺は両手で包むように受け止めた。
優はぶるりと震えて、くっきりした唇から、吐息ともつかない呼吸がこぼれていく。
「葉司、顔、見せて……」
顔を上げると、息を乱した優が、濡れた眼差しのままで、俺を確かめるみたいにしばらく見つめて、それからがくりと力を抜いた。
掌には、優の果てたあとがあって、初めて知った優の反応とか、表情とかが、じんわりと胸に広がって行く。
こんな愛しい瞬間を、俺は初めて知って、眩暈に中に落ちていく。
「あっ、葉司!」
急に、優がガバッと起きたから、俺はビクッと身を引いた。
優はベッドサイドを急いで探って、ティッシュの箱をつかむと、何枚も取り出した。
「はい!手ぇひろげて」
「え……こう?」
俺が両手を差し出すと、優は俺の掌を、ティッシュで拭き取っていった。
優の白い精液は、ティッシュの中へとくるまれていって、器用な指が、俺の手をすっかりぬぐってしまった。
ガバッと抱きしめられて、背中を何度もさすられた。
「やばい!ビックリして、嬉しくて、どうして良いかわかんない!」
興奮気味に言う優に、かぷりと食べられてしまうみたいにキスされて、俺はその腕の中でじっとしていた。
俺が少し微笑むと、優の瞳が優しくなって見返してくる。
そんな幸せの中に、漂っている。
「優……会えてよかった」
十七年だけど遥かな瞬間を重ねて、こうして今、優の熱さを感じられること。
「俺も、葉司」
ベッドに起き上がったままに、キスは降りてきて、そのまま唇は頬に、耳朶に、首筋へと滑っていく。
優の指先が背中から、脇腹をさすっていって、腹のあたりを撫でた。
「葉司、触っていい?」
「あ、俺は……」
パッと身をずらして、優の指を思わず握った。
「俺も葉司に触りたい」
「あの……俺は、いいから……」
「え、だって、葉司だって――」
「本当に、いいってば……」
取り繕うようにぎこちなく笑って、慌ててベッドから降りようとして、ガシッと腰をつかまれた。
突然に腰に優の手を感じて、逃げようとしたけど、わずかに一瞬遅かった。
優の手が、ボクサーパンツの上にするりとすべって、俺はその腕をつかんだ。
「んっ?」
何か拍子抜けしたような優の声がして、掌は何度か俺の下腹部を行き来した。
「ちょっと待って」
そう言いながら、その手が下着を下ろそうとしたから、俺は本気で抵抗して揉み合いになった。
「優、いやだって……!」
「あれっ?」
あ、気付かれたんだ――
そう分かると、俺は脱力して、ベッドに引き戻されるままに、視線を反らした。
「緊張、してる?」
「……」
俺は言葉も見つからずに、ただ黙り込んだ。
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