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第33話 花ひらく星月夜⑦

 優が覆い被さってくると、急に緊張が体に走って、唇をぎゅっと引き結んだ。  腰の下にクッションをあてがわれ、大きく脚を開いて持ち上げられて、俺は思わず腕で顔を覆ってしまう。  普段はすることのない姿勢になって、あられもない姿を晒している。  羞恥が身体を突き抜けるように走って、どんな顔をして良いのか分からない。 「葉司……」  優の昂りの熱さが後孔にぴたりとあてがわれて、息が止まりそうなのを、一生懸命に呼吸を繰り返した。  優の体もいつもよりひどく熱くて、優に触れられているところから火傷しそうな感覚になる。 「痛かったら止めるから――」 「大……丈夫」  ぎこちなく微笑うと、優の温かい手が俺の下腹を撫でた。 「葉司が、大好きだよ」  顔を覆っていた腕をそっと取られて、手を優しく握られた。 「俺も……優が――」  大好き、と言いたかったけれど、声が震えて言葉に詰まってしまった。 「うん、わかってる」  優はひどく優しい瞳をしていて、顔を寄せるとキスを落とした。  その首筋をかき抱いて、唇と唇を何度も重ねて、優の手で昂りを弄られている間に、気持ち良さが高まって、緊張がほどけていく。  優はその瞬間に、グッと腰を押し進めてきた。 「あ、あっ」  内股を掌でぐいと押し広げられて、後孔に熱い先端がめり込んで来るのがわかった。 「ゆ、優……」  本能で逃げようとする腰をつかまれて、指で昂りを上下に扱かれて、でも後孔に入ってくる優は止まらなくて、感覚はバラバラになりそうだった。  ひきつれるように、押し込まれると苦しくて、なのに優の切羽詰まった顔を見ると、俺の身体がそうさせているのだと感じて、電流が走るように痺れていく。 「う……うっ」  抑えたいのに、少しずつ侵入されるたびに、声が漏れてしまう。 「ちょっとずつ……入って、るよ……」  吐息のように囁かれる言葉が、やんわりと心に広がって、体が震える。  優の苦しげに寄せられた眉、速まった呼吸の音、下肢で感じる優の熱さのすべてが、俺と繋がるためで、俺の体のせいなのだと思うと、ジーンとした痺れが背筋を走っていった。 「う、ん……っ」  より受け入れるために脚を広げようとしたけど、強張った脚は動かなくて、そこへ優がぐっと入ってきて、思わず咽喉が仰け反った。 「あ、あ、あ……」  俺はただ溺れるみたいになって、優の肩にぎゅっとしがみついた。 「息して、葉司」 「は――あぅっ」  はくはくと唇を動かすだけになって、優を受け入れたいのに、初めての衝撃に身体がどこか拒んでいる。  反対の感覚に、バラバラになって引き裂かれそうになる。 「葉司、好きだよ……」  優は途中まで進めたままで、覆いかぶさると、そっと唇を重ねてきた。  やわやわと舌で唇を舐めとられ、上顎を舐められると、ぞくりと快感が走った。 「う……んんッ」 「半分まで――入ったよ」  耳元で優しい声で囁かれ、俺は肩ではあはあと息をしながら固まった。 「は……んぶん……」  遠くなる意識で見上げると、優は耐えるように唇を引き結んでいて、上気した頬を染めていた。 「今日は――ここで、止めよっか……」 「大……丈夫、大丈夫、優……!」 「そんな泣きそうな顔で言われたら、可愛くて――どうして良いかわかんないよ……」  貪るようにキスされて、優の昂りが俺の中でビクッと震えている。  優は少しずつ腰を引いて抜いていった。 「あっ、大丈夫……だから……っ」 「んッ!」  抜きかけていた優が、ピタリと止まって、ビクビクッと腰を震わせた。  俺の肩にがくりと頭をもたせかけた。 「ちょっと……ちょっと、だけ……動いて良い……?」  掠れた声がセクシーで、追い詰められたような濡れた瞳に目を奪われて、俺は小さく頷いた。 「あっ」  優は急に俺の腰を両手でつかむと、浅いところを突き出した。 「葉司……ッ!」 「う……あぁッ」  いつも指で気持ち良くされているところを、優の昂りで擦られて、痛いのか、熱いのか、気持ち良いのか、もうわからない。  優の全部は入っていないんだろうけど、それでも体の中はいっぱいになって、ただ揺すぶられるたびに、喘ぎが止められない。 「優……優っ!」 「も……う……っ」 「あ、あ、あぁッ」  浅く突かれるたびに体が動いて、目の前には感じきった優の紅潮した顔があって、体中がジンジンと熱くなっていく。 「葉……司……ッ!あッ!」  優の蠢きが速まったと思うと、ピタリと止まって、それから体の内奥で、優がビクビクッと震えるのを感じた。  ドクドクと迸りの熱さを後孔で感じて、自分の心臓まで跳ね上がりそうだった。 「あ……優――」 「葉司……っ」  イッたんだ――  そう感じると、ブワッと嵐が吹いたみたいに、優への愛しさでいっぱいになった。 「優――優……」  俺の中でイッたんだ――  幸福感で溢れて、愛しさでどうして良いかわからなくなった。 「葉司……」  呼吸を乱したままの優が、俺の前髪をかき上げて、まだ熱を持ったままの瞳で、じっと俺を見つめた。  どちらからともなく、指と指をからめて握り合った。  優はそっと腰を引いて、ゆっくりと抜き出した。 最後にずるりと引き抜かれて、ぐいっと痛みが走って、思わずぎゅっと目をつぶった。  乱れた呼吸を戻せずに、開いた脚も閉じることができずに、ただ肩ではぁはぁと喘いだ。 「大丈夫?葉司」  うん、と答えたつもりが、声にならなかった。  幸福さと苦しさがないまぜになって、気が付くと涙がこぼれていて、慌てて掌で隠した。 「葉司……葉司」  もう優は入っていないのに、後孔にはまざまざと感覚だけが残っていて、心が不安定に揺れている。  今までに感じたことのない、フワフワとした浮遊感と、心からこぼれ落ちるような不安さと、体に残っている感覚で混乱している。  抱きしめて欲しい衝動が襲ってきて、手を伸ばしかけた。 だけど、鬱陶しがられたらという恐れに腕が強張って、宙で止まった。  それを優の手がすくい上げて、そっと俺の手を握った。  俺の手の甲に何度もくちづけながら、優が囁いた。 「あのさ、葉司」 「ん……」  手にくちづけられていると、うっとりとしてきて、夢半ばに答えた。 「絶対、気持ちいいと思うから。ちょっとだけ頑張って」 「え……?」  手を伸ばした優が、半分萎えてしまった俺の中心部を撫でるようにして、それから下のほうへと身を沈めていった。  俺の開いたままの下肢へと優は顔を寄せて――  掌で包んだ昂りに唇を寄せて、そこへ何度かキスをした。 「えっ――」  俺はビックリして目を見開いた。 「いやだって……」  俺がハッとして身を起こそうとすると、さっきまで優が入っていた感覚が残っている後孔に、優の指が入ってきて、浅いところを撫でるように押した。 「あ……う……ッ」  体がもう覚えてしまった快楽を拾って、鼓動が速くなる。  俺はずり上がって逃げようとしたけど、優の指の動きが強まって、ただ喘ぐしかなくなった。 「葉司、どこにも行かないで。俺と気持ちいいことしよ?ほら、全部俺がしてるんだよ?」  低く囁かれながら、昂りを擦られ、後孔に指を突き入れられて、ぎゅうっと収縮した。 「あ……あ……ゆ、う……っ」  目の前が霞んでいって、体が熱くなって、意識がぼんやりとしていく。 「うん」  優は一度答えて、それから優の唇が赤く開いて、俺の昂りを包んだ。 「あ……ッ!」  身を起こして逃げようとしたけど、優の舌に先端を舐められて、ズキッと衝撃が走った。 「優……!あぁッ」  舌で先端を舐められながら、唇で昂りを扱かれると、腰から力が抜けていく。  優の舌が蠢いて、ズキンと電流みたいに腰から重い快感が突き抜けて、ぶるっと身震いした。  上目遣いで俺の反応を見ながら、真剣でいてやさしい眼差しを見ると、俺は捉われたみたいに優から目を離せなくなった。 「優が……こんな……んッ」 「ここ、気持ちいい?」  先端の回りをぐるりと舐められて、強く吸われて、急激にズキズキと甘い疼痛が駆け抜けていった。 「うっ……あぁっ!あっ」  優はさらに強く吸い上げて、後孔の指を押すようにして刺激した。 「だ、だめ……ッ!ほんと、もう……ッ!あぁッ」  どんどんと意識は、体ごと高みへと押し上げられて、もっと強くして欲しいような、追い詰めて欲しいような、切羽詰まった感覚でいっぱいになった。 「や、やめ……ほんと、もう……ひッ」  優の肩を押しやろうとして、自分に力が入ってないのがわかる。  優は後孔から指をずるりと引き抜くと、俺の腕を押さえて、咽喉の深みまで、昂りを飲み込んだ。  優のどの行動も、すべてが快感に転換されてしまって、もうどうしようもなかった。  内股がびくびくと痙攣してきて、恥も捨てて優に懇願した。 「もう、出ちゃう……から……ッ!優、だめ――離し……てッ!ひ……っ」  優は逆に唇で俺の昂りを出し入れして、その光景と、下肢から背骨から頭にまで広がった痛いような熱さとで、訳がわからなくなった。 「う……あぁッ!」  意識の遠くで、自分の腰が何度もビクビクと震えて、我慢できずに吐精してしまったのを感じた。  そのたびに甘い疼きが走って、朦朧としてしまう。 「んっ」  優は唇を離していなくて、俺のを口に含んだまま目を閉じていた。 「あ……あ……」  甘く高い緊張から解き放たれると、呆然としてしまって、体に力が入らなかった。  その時だった。  優は俺から口を離して顔を上げると、ごくりと咽喉を鳴らした。 「え……」  最初はわからなかったけど、そのうち優が俺の射精したのを飲んでしまったのだとわかって、カッと頭が熱くなるのと同時に、どうして良いかわからなくなった。 「ゆ、優……出して……」  泣きそうになって言うと、優は赤い舌で唇を舐めた。 「無理。もう飲んじゃったし」 「な、何で……」 「だって、葉司の舐めて、飲みたかったんだもん。美味しかったし、すげぇ可愛かった」  俺は動揺で視線を彷徨わせた。 「気持ちよくなれたよね?俺とだったら、大丈夫だったよね?」 「う……ん」  今日は涙腺がどうにかしてしまったみたいで、また涙があふれて落ちた。  優に抱きしめられて、その温かさに包まれて、瞳を閉じた。 「葉司とキスした日も、初めてした日も、今日のこともずっと忘れない。色んなこと、思い出すよ。もっといっぱい忘れられないこと、これからも俺としてくれる?」 「うん……」  緊張から気が緩まったのと、優の肌の安らぎに、知らないうちに、意識は急激にぼんやりと霞んでいった。 「ゆ……う……」 「うん」  優の胸に頭をもたせかけて、ふわりとした温もりと匂いに包まれて、ただ頭から背中をあやすように撫でられている。  ここは安心できる場所で、愛しさで結ばれた場所なんだと、心に沁み入っていく。 「葉司――」  俺は返事をしたつもりだったけど、安らかな眠りの中へと誘われていった。

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