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第12話

中学3年生の春。 純くんから、引っ越すという話を聞いた。 「もう、会えなくなるの……?」 「……淋しい?」 「うん……」 素直に心情を吐露すれば、純くんが優しく僕の髪を撫でる。 「じゃあ、こっちに近い学校を受けてよ。……来年から、一緒に住もう」 「うん」 嬉しかった。 こんな理由で遠い学校を決めるなんて、不純だと思いながら。 夏休みに入り、通っていた塾の夏期講習に申し込んだ。 でも、すぐに後悔した。 隣の席には、同じクラスの由利恭平。 由利は、僕から見ればリア充の塊で。僕を卑下する集団の一人。 ここでも僕は、肩身の狭い思いをしながらこのひと夏を過ごすのかと、ショックを隠せなかった。 そんな中ふで箱を開けてみると、……消しゴムが無い。 「……これ、やるよ」 隣からスッと差し出されたのは、千切られた消しゴム。 驚いて由利を見れば、特に気になどしていない様子で、プリントに消しゴムをかけていた。 僕に渡してきたものよりずっと小さく、何だか使い難そうで。 「でも……」 「いいから使えって!」 戸惑いながら躊躇する僕に、由利は、屈託のない笑顔を見せてくれた。 「……」 ……たった、それだけ。 それだけで……ずっと心に引っ掛かっていた劣等感や息苦しさから、少しだけ解放されたような気がした。 それから、少しずつ話すようになって。 純くんしかいなかった僕の小さな世界に、いつの間にか由利が入り込んでいた。 塾が終わった後、エアコンの効いたファミレスで一緒に勉強するようになってから……少しずつ、由利の存在が大きくなっていて。 毎日が楽しくて。 だから、つい忘れてしまっていた。 ──僕が、普通とは違う人種だって事に。 『輪廻転生』 この四字熟語を目にした瞬間── 僕は、自分の置かれた立場を思い知らされた。 無性に怖くて。 怖くて怖くて怖くて……仕方がなかった。 きっと僕は、ろくな死に方をしないだろう。 もし生まれ変わっても、また同じような劣等感を抱えて、生きていく事になるんだろうな……って。

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