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【2】SIDE蓮見(2)-2
たった一年の研修で現場の全てを任されると聞くと、人によっては短いと感じるかもしれない。だが、住宅の現場監理の研修としては、むしろ一年は長いほうだった。
規模や工法にもよるが、一般的な住宅の工期は平均して三ヶ月程度だ。監督は常時並行して、三、四件の現場を受け持つ。
一年間先輩社員について回れば、十件から十五件ほどの現場を経験することができる。その中で職人や業者の顔を覚え、彼らからも顔を覚えてもらう。基本的な段取りを身に着けた後は、経験を積みながら自分で判断する力を磨いてゆく。
規格住宅や建売住宅と違い、注文住宅は一つとして同じ建物はない。起こる問題もさまざまだ。独り立ちをしてからも周囲に相談することは多いが、三年目になった蓮見は、すでに一人前の監督だった。
三井がキッチンの相談に来て二日後の朝、蓮見はその家の現場に立っていた。
一月の後半、立春前の午前中の寒さは格別だ。建築に携わると暦や神事を気にする機会が増えるが、現場の仕事をしていると暦の上だけではない暑さや寒さを身をもって感じることになる。
冷え込む空の下で指先に息を吹きかけていると、現場に面した幅四メートルの生活道路に三井の姿が現れた。
約束通り水曜の夜に見積書を取りに来た三井は、今日は施主のところへ話をしに行くはずだった。昨夜見積書を取りに来た時に工期についての説明はした。納得して帰っていったように見えたのだが……。
「何かわかんないとこあった?」
挨拶もそこそこに白い息を吐きながら聞くと、三井はにこにこしながら首を振った。白い息の向こうの小さい顔の真ん中で、完成された形の鼻がかすかに赤く染まっている。
「ううん。あのね、施主の安田 様を今からご案内したいんだけど、いい?」
「施主を? 別に構わないけど……」
戸惑う蓮見を後目に、またにこにこ笑って「ありがとう」と頭を下げ、三井は軽く手を振りながら元の道を戻っていった。
スーツの上に羽織っているのは蓮見たちと同じ会社支給の防寒用ジャンパーで、営業マンにしては洒落っ気がないなと思いながら、後ろ姿を見送る。クルマはどこかに停めたのだろうと、なんとなく思った。
十五分ほどして、施主の妻と思われる四十代くらいの女性と、おそらく娘だろう中学生くらいの少女を連れて、三井は戻ってきた。
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