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【2】SIDE蓮見(2)-7

「真由ちゃんの意見や希望を、僕がもっと聞かなきゃいけなかった」  真由が驚いたように三井を見る。 「希望を全部叶えるのは無理でも、住む人みんながこれでいいって納得するまで、もっとよく話を聞くべきだった。ごめん」  夫人が慌てて手を振る。 「三井さんは、話も聞いてくれたし、たくさん考えてくれたわよ。真由ちゃんがこんなこと言い出したのは、全部決まった後だもの。謝らないで」  それから夫人は真由の目を見てゆっくり聞いた。 「今からキッチンを変えると、お金がかかるし完成も少し遅くなるの。でも、それでいいなら、まだ変えられるって三井さんは言ってくれてるの。ずっと住む家だから、どうしてもあのキッチンがいいと思うならやってくれるんですって。真由が本当にそうしたいなら」  真由の表情が少しずつ緩んでゆく。 「遠慮しないで言っていいわよ」  夫人が微笑むと、眉は目を逸らした。剥き出しの材木とコンクリートの土間しかない未来のLDKをじっと眺める。  それから、ふいに恥ずかしそうに肩をすくめてみせた。少し笑っている。 「今のままでいいよ」 「え、いいの?」  夫人が目を瞬く。 「うん。ママや三井さんが言ってること、なんとなくわかった。キッチンの向きだけ変えても美咲ちゃんちみたいにはならないってことだよね」  にこりと笑って三井が頷く。  夫人は念を押した。 「本当にいいの?」 「うん」  真由が大きく頷く。 「三井さんに謝らせちゃって、私のほうこそごめんなさい。監督さんも、もう工事やりかけてるのに、わがまま言ってごめんなさい」  きちんと頭を下げて真由が謝る。  まだ、今日いっぱい考えてから返事をくれればいいと言う三井に、真由は首を大きく振ってきっぱり答えた。 「もう、大丈夫。これでいいって決めたから」  ママからもちゃんと言ってと、娘に背中を押され、夫人も頭を下げる。 「お騒がせしてごめんなさい。今のまま進めてください」 「本当にいいんですか?」  思わず聞いた蓮見にも、二人はしっかりと頷いた。  表情はどちらも晴れやかだ。真由も夫人も納得したのだとわかった。

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