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【2】SIDE蓮見(2)-8
「それじゃ、どうぞよろしくお願いします」
もう一度頭を下げて、安田|母娘《おやこ》は現場を後にした。
並んで帰ってゆく後ろ姿を見送りながら、蓮見は心の中で感心した。
(打ち合わせで手を抜いたわけじゃなかったんだな……。それどころか、ずいぶん丁寧に話を聞いている)
意外だった。
成績がいいらしいと耳にしたのは最近で、それまでは特に目立つこともなく、時々面倒な相談をしに来る人だと思っていた。
顔が綺麗なだけの王子様なのだろうと。
けれど、違う。
ここまで顧客のことを考え、丁寧な対応をするる営業マンを蓮見は知らない。
三井のことをもっと知りたい。
単純にそう思った。
「三井さん、クルマは?」
何気なく聞いてみる。
「安田さんちの近くのコインパーキングに停めてきた」
ほかの営業マンもこんなふうならどんなに助かるかと思う。
「三井さん、この後って、何か予定ある?」
「ううん。特には……。展示場に戻って、夕方から訪問する予定のお客さんの資料を確認するくらい……」
腕時計に視線を落とすと針は十一時を指していた。
一時に別の現場の中間検査が入っている。そろそろ出かけて目的地に着いてから昼休みを取る予定だった。
クルマの中でコンビニ弁当を食べ、時間まで昼寝をするのがふだんの蓮見の行動パターンだ。
「ちょっと早いけど、昼飯、一緒に行く?」
「え……」
軽く言ったはずなのに、なぜか三井の頬がかすかに赤みを帯びてゆく。
(え……? な、なんで、ここで赤くなるんだ……?)
大きな目を一つ瞬き、少しだけ不安そうに瞳を揺らした三井に、蓮見のほうがなぜかドキドキしてしまう。
「い、いや……、あの、もし時間あれば、だけど……」
「あ、うん」
こくりと小さな頭が揺れる。
「是非……」
花びらのような唇をかすかに開いたまま、三井の表情が少しずつ緩んでゆく。赤みの差した頬にふわりと幸福そうな笑みが浮かんだ。
心臓が締め付けられる。
(綺麗だ……)
蓮見の心臓はおかしくなっていた。
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