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【3】SIDE蓮見(3)-2

 建物を建てるには公的機関への申請が必要になる。  図面と書類とからなる建築確認申請書類を作成し、管轄の市区町村の建築指導課もしくは代理期間に提出し、確認が下りたものだけが施工を許される。  当然、図面通りに施工しなければならない。軽微なものを除いて、変更の際には届け出も必要だ。  それらを怠って建てられた建物は、建物として認められない。  完了時の検査が受けられなければ、財産として登記することもできないので、抵当権の設定もできない。  つまり、銀行ローンが組めない。金利の安い公的な融資も、もちろん利用できない。  中間検査は建築基準法で義務付けられたものではないが、その公的融資を受けるために必要な検査だった。専門の外部機関が担当する。 「検査、そうする?」  田中に聞かれて、蓮見は頭を抱えた。  階段は重要な検査項目の一つだ。  手摺のデザインを変える程度なら問題ないが、壁の内側に端部が隠れる腰壁手摺と三面ないし二面が露出する化粧手摺では踏板の形状自体が違う。  腰壁手摺を化粧手摺の一つであるアクリル手摺に変えるには、全部造り直さなければならないのだ。 (タイミングが悪すぎる……)  検査を受けた後で階段を造り直せば、検査も受け直しだ。 「お客さん、どうして、今ごろになってそんなこと……」  田中は黙って、苦虫を噛み潰したような顔を見せる。 「営業担当は、誰でしたっけ?」  一度も現場で会わなかったせいか、担当者の顔が思い浮かばない。 「新井(あらい)さんだよ」  田中が口元を歪めるようにして言った。

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