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【3】SIDE蓮見(3)-4
「確かに……」
設計打ち合わせの段階でアクリル手摺を希望していたなら、必ず図面と見積もりに反映される。
「承認図のハンコ見てみな。設計課との最終打ち合わせを担当したのは西園寺 さんだ。客から承認印をもらったのもあの人。見落としたってことも、確認し忘れたってこともないだろ」
図面の担当欄を見た。
「西園寺か……」
西園寺雅人 は、かつていくつものコンペで賞を取ってきた気鋭の建築家だった。本来なら地方のハウスメーカーで一般住宅の設計を生業 にするような男ではないのだが、どういうわけか本人はこの仕事が好きだと言って、数年前に地元に戻り、中堅のハウスメーカーの十五人ほどしかいない設計課の課長に収まっている。
ウエストハウジングの創業社長、西園寺紀夫 の次男であることも無関係ではないだろうが、なかなか珍しい経歴の持ち主だ。
いずれにしても優秀すぎるほど優秀で抜け目のない男で、田中の言う通り、西園寺がミスをしたとは思えなかった。
「レジなんかでさ……」
田中がぽつりと口を開く。
「店側のミスで何か得した時とか、知らんぷりして黙ってるやつっているだろ。あれと一緒だよ。差額を出さないでアクリル手摺が付けばラッキーとでも思ってたんだろ」
「まさか……」
差額のみとはいえ、無視できる額ではない。
「新井さんには言ってあるのかもしれない……。あの人なら契約欲しさに適当な口約束をしたとしても、不思議じゃないしな。だから、そのへんを盾にしてゴネればなんとかなると思ったんじゃないかな」
「さすがに無理ですよ」
そんなことを考える客がいるとは、にわかに信じ難い。だが、田中は「この家の施主にはそういうところがあるんだよ」と言う。
「駅のロータリーなんかでさ、乗り降りしやすい場所があるだろ。ここの最寄り駅だと、階段に一番近い歩道の脇なんだけどさ……。だいたいみんな、そこで人を乗せたり降ろしたりしてすぐに移動するんだよ。決まりはないけど、順番に譲り合ってる感じな。だえど、たまに一番いいその場所で降りてくる人間をずっと待ってるやつがいる。人待ちする時、ほかのクルマは少し先の歩道脇に停めて待ってるのにさ」
蓮見は誰かの送迎をしたことがあまりないが、田中の言う状況はなんとなく理解できた。
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