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【3】SIDE蓮見(3)-7

 何を言っているのだ、この男は。  あまりの言い様に、腹が立ちすぎて言葉が見つからない。満腹そうなげっぷが通話口から聞こえ、端末越しとはいえ不快感で顔が歪む。 『とにかくさ、お客の言うのに変えといてよ』  そう言って、新井は通話を切ろうとする。 「ちょっと待ってください。追加見積もりも上がってないのに、金はどうするんですか。今から発注して検査も受け直したら、契約した工期にも間に合わなくなる。それをお客さんは承知してるんですか?」  ちっと短い舌打ちが耳に届く。 『……たく、これだから新米はよぉ』  蓮見にだけ届く低い声で新井が吐き捨てた。  腹の底から怒りが湧き上がる。 (何言ってるんだよ。新米だとかベテランだとかいう問題じゃないだろ……)  自分の手には負えないと判断したことは谷に聞く。谷でも難しい問題ならば、課長なり部長なりが出て来て判断してくれる。蓮見は自分が未熟だということを理解しているつもりだ。  今回も谷に相談したが、蓮見自身もその判断に納得していた。誰が関わっても同じ答えが出るはずだと思った。新米云々の問題ではない。  後ろでやり取りを聞いていたらしい村田所長が、電話の向こうで新井に何か言った。  ふてくされた新井が、いきなり強い口調でがなり立てる。 『ああ、もう! だったら、いいよ、今のままで!』  あまりに急な撤回だ。 「本当にいいんですか?」 『なんだよ。おまえがそうしろって言ったんだろ。次の客のアポも取らなきゃなんねえのに、終わった客のことで、いちいちつまんねえこと言ってくんなよ』  終わった客?  蓮見は耳を疑った。まだ工事の途中で、引き渡しも済んでいないのに、新井にとって原は終わった客なのか? 「……お客さんには、新井さんからちゃんと説明してください」  せめてそれだけはと口にすれば、『ああ、はいはい』となげやりな返事とともにこう続けられた。

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