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【4】SIDE蓮見(4)-1

 立春を過ぎ、二月半ばの「建国記念の日」前後になると、ウエストハウジングでは全社一斉に恒例の社員旅行に出かける。  ただでさえ忙しく寒い時期に全員参加で行われるのは、旅行の本来の目的が西園寺家の氏神様に現場や社員の安全を祈願することにあるからだ。(げん)を担ぐ意味で、四十年間毎年同じ時期に行われていた。  温泉街の高級旅館に宿泊し、参加すれば出勤にカウントされる上経費はすべて会社持ち。賛否はあるものの、おおむね楽しみにしている者が多かった。  年に一度、部署に関係なく皆が会するのも悪くないものだ。業界的に女子の数が圧倒的に少ないのが難点だがそれもいまさらな感があり、町に出れば遊ぶ場所はいくらでもあるため、男ばかりのほうがかえって気安いと言う者も多かった。  今年は十四日と十五日の二日間が旅行の日程に当てられた。  世間ではバレンタインデーということもあり、モテない幹事の陰謀だなど冗談を飛ばす者もいる中、バス五台を連ねての賑やかな旅が始まる。後の仕事のことさえ考えなければ、それなりに心が浮き立つ。  最近ではこんな大人数での旅行自体珍しいのだと、古い職人たちや古参の監督たちが嬉しそうに同じ話を繰り返した。  バスが走り始めると早速ビールが配られ、高速に入る頃には車内は宴会場に様変わりしていた。これも恒例のことだ。  乗車するバスの号車や部屋割りは部署ごとにざっくり決められていて、工事部の車両には職人のカシラや大工の棟梁たちも乗っている。  酒が飲めないと務まらないと言われるほど酒席の多い業界だ。パーキングエリアに着く頃には赤い顔でふらふら歩く集団が出来上がっていて、酔っていない者は少しばかり肩身の狭い思いをすることになるのだった。 「工事部のバス、相変わらずすごいね」  トイレの外で身体を伸ばしていると、設計部の水野祐希(みずのゆうき)が声をかけてきた。  同期入社ということもあり、課は違うが親しく付き合っている相手だ。アイドル歌手のような可愛らしい容姿が営業マンから舐められがちだが、西園寺仕込みのなかなかいい図面を描くので工事部での評価は高い。大卒なので専門卒の蓮見より年は二歳上である。

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