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【4】SIDE蓮見(4)-2

「毎年のことだからな。設計のほうは静かでいいよな」 「今年はそうでもないけどね」  人数の少ない設計部は営業部の一部と同じバスに乗る。営業には様々な人間がいるので、年ごとに雰囲気が変わる。  今年は賑やかな集団と一緒になったようだ。 「西園寺がいても騒ぐツワモノがいるんだな」 「また呼び捨てにして……。雅人さん、こういう時はそんなにうるさく言わないよ?」  社長の次男でもあり設計課の課長でもある西園寺を、蓮見が呼び捨てにするようになったのは、祐希のことで揉めて、一度大きな衝突をしてからだ。  今年三十七歳の西園寺は立場的にも年齢的にもはるかに上で、普通なら蓮見の態度は咎められてもおかしくない。  だが、西園寺は逆に蓮見のこの習慣を面白がっていた。  身長が百八十五を超えるような長身の男は、社内でも蓮見と西園寺くらいだ。同じ高さの目線を持つ仲間意識のようなものがあるのかもしれない。  とはいえ、堂々と呼び捨てにするのは本人と祐希の前だけだった。  祐希が西園寺を「雅人さん」と呼ぶのも、おそらく蓮見と本人の前だけだろう。  祐希は西園寺と恋愛関係にある。  社内でそれを知っているのは蓮見だけだ。  小さく口を尖らせた祐希を、暇つぶしに軽く揶揄(からか)ってみる。 「祐希、西園寺と同室なんだよな」  設計部は設計課と積算課に別れていて、比較的女性が多い。男はせいぜい二部屋に収まる人数だが、西園寺がほかの男のいる部屋に祐希を一人で休ませるはずがなかった。  にやにや笑うと、祐希は顔を赤くする。 「そ、そうだけど、だからって別に何もしないよ」 「何もって、何をするんだよ」  さらに頬を赤くして睨む顔は、とても年上には見えない。  細身で華奢な身体を見下ろして、男でもこれだけ可愛ければ抱きたいものかもしれないなと、今まで思ってもみなかった考えが頭に浮かんだ。誰かと似ている気がして、すぐに三井の姿と重なった。  ふいに西園寺と祐希の濡れ場が瞼に浮かぶ。  続いて自分と三井のそれを想像し、蓮見は「うわっ」と妙な声を上げた。

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