30 / 207

【4】SIDE蓮見(4)-5

「酒、意外と強いんだな」  ぬるくなったビールをコップに注ぎながら言うと、それを少し飲んでから三井が微笑む。 「実は、そんなに飲んでないんだ。蓮見も、あんまり酔ってないね」 「俺も実は、ほとんど飲んでない」  三井の返杯を口にして、蓮見も笑った。  ヘタに飲めばつぶれるまで飲まされる。過去の飲み会で嫌というほど学んでからは、はじめから量を入れない飲み方になった。  すぐ近くで酔った営業マンたちが奇声を上げている。  大袈裟に笑い転げる彼らの真ん中で、新井が怒鳴るようにしゃべっていた。 「だからー、おまえらは知らないかもしれないけどなぁ、こう見えて俺は男にはモテんの!」  ゲラゲラ笑い続ける男たちの声と、それにかき消されまいと張り上げる声がぶつかり合う。騒々しくて、とても話が出切る状況ではなくなってしまった。  (ぬる)いビールをちびちび舐めながら、喧騒の中で黙って並んで座っていた。 「女にモテない新井さんが言っても、ちょっと信じられないよなぁ」  大きな笑い声が響く。 「相手が男になったからって、そう簡単にモテるもんじゃないだろぉ」 「モテたとしても、男じゃあなぁ」  新井が声を張り上げる。 「男、男ってバカにすんなよな! 世の中には、並の女よりよっぽど綺麗な男がいるんだからな!」 「それはそうかもしれないけどさぁ」 「いくら綺麗でも男は男だ。俺はやっぱり女の子のほうがいいなぁ」 「俺もー」  ぎゃはは、と笑い声が広がる。  輪の中の一人が高く手を挙げた。 「この後どこか、綺麗なお姉さんがいる店に行く人ぉ」 「おぉ、俺行きます!」 「俺も」 「行く行く!」 「あー、俺もー!」  五、六人が一斉に腰を上げた。それを引き留めようと、新井が声を張る。

ともだちにシェアしよう!